2026年1月16日金曜日

【TORCH Vol. 167】スポーツから行動経済学を学ぶ

 

スポーツ情報マスメディア学科 助教 吉村広樹


書籍「行動経済学が勝敗を支配する」(著者 今泉拓氏)をご紹介したいと思います。

本書は、心理学と経済学を融合させた「行動経済学」の視点から、スポーツにおける意思決定のメカニズムを鋭く分析した一冊です。著者は、行動経済学において、スポーツのデータは「人間心理が凝縮された宝庫」であると述べています。極限のプレッシャーがかかるスポーツの現場では、人間の本質的な心理傾向が如実に表れるからです。本書を通じて明らかになるのは、どれほど訓練を積んだプロのアスリートや審判であっても、「つい不合理な選択をしてしまう」という驚きの事実です。


本書は、各章ごとに1つの「認知バイアス(思考の偏り)」を取り上げ、多様なスポーツ事例を題材に解説する構成となっています。単なる事例紹介にとどまらず、これらの認知バイアスを理解し克服することが、最終的な競技力の向上につながるという実践的なメッセージが込められています。本書で紹介されているバイアスの中から、特に興味深い2つの事例を紹介します。


1つ目は損失回避バイアスです。本書で紹介されているゴルフを題材にした事例をご紹介します。人間は損を嫌う生き物であるため、「バーディー=得」、「ボギー=損」と意識し、バーディーを取ろうと難しいパットに挑戦するよりも、ボギー(=損)を嫌って安全なパットをする可能性が高いと提唱されています。本来、ゴルフはボギーの少なさやバーディーの多さを競う競技ではありません。18ホールを回って最終的に少ない総打数であることが最も重要なはずです。しかし、トッププロであっても損失の恐怖が不合理な慎重さを招くことを示しています。


2つ目はフレーミング効果です。サッカーと野球(MLB)では、ビデオ判定によって判定が覆る確率が大きく異なります。これは「誰が」「どのような枠組み(フレーム)で」判断するかが影響しているようです。サッカーは、主審自身が映像を見て最終判断を下し、MLBでは、 別のスタッフが最終判断を下す。というフレームになっています。主審が自分自身で映像を確認する場合、「自分の判定は正しかったか?」という疑いの目で再確認することになります。「疑いのフレーム」を通して再度プレーを確認する事で、判定が覆る可能性が生まれるのです。同じプレー映像でも、どのような心理的枠組みで見るかによって結果が変わることを示唆しています。


本書は、スポーツのあらゆる場面における意思決定の裏側で、いかに多くの「不合理な意思決定」が行われているかを教えてくれます。

 

人間である以上、バイアスから完全に逃れることは難しいかもしれません。しかし、少しでも行動経済学の知見を取り入れ、自分たちの陥りやすい罠を理解することで、冷静な判断が可能になり、結果として競技力が向上するかもしれない――本書は、そんな希望と新たな視点を与えてくれる本です。皆さんもぜひ一度、読んでみてください。

【TORCH Vol. 166】なぜ学術英語論文を読み, 英語で論文を書くのか

 

                         体育学科 講師 金 瑞年

はじめに

私たちは今日,書籍,新聞紙,テレビ,さらには SNS など,多様な媒体を通じて新しい知識や情報を得ることができる.それでは,仮にこれらの情報媒体が存在しなかったらどうなるだろうか?また,これらの媒体の大きな違いは何だろうか? 言うまでもなく,「情報伝達の速度」と「影響の及ぶ範囲」であると思われる.本稿では,「なぜ学術英語論文を読み, 英語で論文を書くのか」という題にして,これまでの自分の経験を踏まえながら述べていきたい.

  1. なぜ学術論文を読み,どのように読むのか

学術論文とは,科学研究によって得られた新たな知見を,指定されたフォーマットや学術誌の投稿規定に沿って論理的に記述した文章のことである.その中心には,【問題提起】とそれに対する【問題解決】の構造が明確に存在します.

【問題解決】の構成は,「○○という問題が存在しているため,本研究ではその解決を試みた」という形で提示される. たとえば,日本の昔話「モモタロウ」を例にとれば,物語の大筋は,「鬼が村人を苦しめた」という問題を「モモタロウが剣で退治した」というものである.ストーリーの構造が明確であるため,子どもから大人まで容易に理解できるのである.一方,なぜ英語論文を読むべきなのか? 日本語の論文だけではだめなのか? 簡単に言えば,英語で学術論文を書く人は多い(情報が多い).つまり, 最新の研究成果は主に英語論文として公表されるため,大学での学習や研究においては,何らかの英語文献や資料を読むことが不可欠である.しかし,初めて学術論文を読むのは,誰にとっても大変な苦労を伴うと思います.ここでは,私自身の経験にもとづき,英語論文の読み方について,基礎の基礎から話を進めていきたい.

私が英語論文をまともに読んだのは,博士課程 1 年目に初めて研究計画書を作成したときである. 当時,研究計画書の枠組みやどのように内容を展開させていけばいいのか,全く分からなかったため,同分野で既に発表されている英語論文を読んで,最低限把握すべき内容は次のとおりである.

    • Introduction・背景」部分で執筆者がどう論理展開しているか

    • 自分のアイデアとの重複と相違点はどこにあるか

    • どこまでわかっていて,どこがわかっていないのでしょうか

    • 論文で使われる専門用語の使用方法とその定義

    • 結論

    • 参考文献 (自分の興味に関連する情報を探す際に有用です)

補足:ある論文を読むべきか,読むべきでないかを, 素早判断するポイン

  1. 論文を読む目的を明確にする(Aim)

    • 読みたい論文が自分の研究テーマや関心に合致しているのか?

    • 論文から何を知りたいのか?

  2. タイトルを確認する(Title)

    • タイトルは,その研究の最も重要なメッセージを表している.

    • 良いタイトルは,研究対象・問題・キーワードなどを反映する.

  3. 研究の出発点(Motivation)を把握する

    • 一般的に,論文の冒頭にある要約は,論文全体の概要を示し,研究モチベーションを把握できるため,読者は,その論文を続けて読む価値(要性)があるかどうかを, 判断することができる.

  4. 考察(Discussion)を確認する

    • 考察の最も重要な目的の一つは,イントロダクションで提示したリサーチクエスチョンを踏まえながら、観察された現象(研究結果)について議論するセクションである.

まとめ

最初にある程度の専門用語や背景知識が分かるのであればそれでいいと思います.

  1. なぜ英語で学術論文を書くのか

まず,「なぜ論文を書くのか?」について触れておきたいと思います.私たちはそれぞれ唯一無二の存在であり,異なる教育的背景を持つため,同じ問題に対しても多様な考えやアプローチが生まれる.したがって,論文執筆の動機は人それぞれである.次に述べるのは,私の個人的な考えですが,あなたが考えるヒントになるかもしれません.

    • 修士・博士号取得を目指す

    • 研究活動の初歩をやってみる

    • 研究の過程で得られた経験や成長を重視する

    • 自らの考察の妥当性を他者に認めてもらいたい

    • キャリア形成や昇進のために執筆する

私の場合は,知的好奇心の追求と科学的真理の探究,そして新たな知見や技術を社会に還元することにより,人類に貢献したいという思いが根底にある.


では,「なぜ英語で学術論文を書くのか?

紙面に限りがあるため,要点を以下に簡潔にまとめる.


    • 学術および科学研究に関する論文や著作の約 9 割が英語で書かれてい.

    • 英語は長年にわたり学術出版と国際研究交流の主要言語である.

    • 世界の多くの大学・研究機関では,国際ジャーナルへの英語論文発表が,採用・昇進・評価・学位取得に直結している.

    • 世界のトップレベルの大学や研究機関の多くが英語圏に位置し,新しい知識や技術へのアクセスが英語を通じて行われやすい.

    • 英語は科学界の共通語であり,研究成果を迅速かつ広い範囲へ伝える最も効果的な手段となっている.

おわりに

研究とは, 観察・実験を通して新しい知を生み出し, それに基づく理論や技術により,人類社会の発展や生活の「質」の向上に寄与する営みである.しかし,論文を読むも論文を書くも,ここで強調したいのは,大部分の研究領域は試行錯誤の積み重ねによって進歩しており,科学に「絶対の正解」は存在しない.たとえ高い評価を受けた研究であっても,後続・将来の研究で修正されたり,異なる解釈が示されたりすることは珍しくない.したがって,学部生・大学院生・若手研究者を問わず,「批判的に読め!」姿勢が重要となる.これは,新しい研究課題を発見し,既存の知識の空白を埋める上で不可欠である.


【参考文献】

1 佐藤春彦. (2019). なぜ英語で論文を書くのか:5 つの動機.理学療法, 46(4), 289-293.

2 English As the Language of Research and Worldwide Academic Journals V. Laxmi Tulasi et al. DOI: 10.54850/jrspelt.9.47.001


【推薦図書】

1] 近江幸治:学術論文の作法・論文の構成・文章の書き方・研究倫理(3版),成文堂, 出版年月日(2022/01), ISBN1:9784792327767

2] 石 圭:論文・レポートの基本 : この 1 冊できちんと書ける! 実業出版社 (2024 2 16 ),ISBN-10: 4534060807


Please feel free to contact to me if you have questions on this essay and more information about me is available at https://researchmap.jp/ruinian.jin

e-mail: r-jin@sendai-u.ac.jp

2025年12月7日日曜日

【TORCH Vol. 165】「思い出の本との再会」 

                                                            現代武道学科 教授 伊藤 晃弘

 某月某日、仙台大学図書館の各書棚をじっくり探索していた時のこと、「えっ?」なつかしい本と三十数年ぶりの再会を果たしたのです。島根県の片田舎から就職で東京へ、数年が経った頃に仕事で区役所に行き、時間に余裕もあったことから近くの図書館に立寄りました。もろもろの不安やストレス解消だったのか、はたまた何か刺激を求めていたのか、記憶も定かではありませんが、本のあら捜しをはじめました。これまで学校の教科書以外で本に接する機会も少なく、大袈裟ですが考えてみますと、小・中学校時代の夏休み課題「読書感想文」以外無いのでは!と思うほどです。

 しばらく見ていると、「心のささえに」の題名で厚さも手頃の本が目に入り、目次が約30あり、それぞれの章は4から5ページで挿絵ありのものでした。館内で読み始めたところ、非常に読み易くはまってしまい、時間の経過も忘れ全て読み終えてしまいました。

 本を読んで感銘を受けた、指標になった、人生が変わったなどの経験をされた方もおられるかと思います。「竜馬がゆく」や「坂の上の雲」などで有名な司馬遼太郎は、長編小説作品を多数執筆していますが、電車の通勤時間や移動時間を有効活用し本に親しんでもらうための短編作品も数多く執筆したといわれています。まさにこの本は、通勤時間や僅かな時間で効率的に読めるものであり、身近な人との交流、日頃の生活での出会いや場面を通じて感じたことが素直に記述され、かつ端的に表現されており、読んでいて「このような感じ方、考え方もあるんだ」との思いを巡らせてくれた本であることに加え、強く記憶に残っている本の一冊でした。この本との再会に感激するとともに、まさかの出会いに「本当にありがとう」の瞬間で、当然すぐに貸出を受け、懐かしくじっくりと読ませていただきました。

 本の紹介やTV番組などで、「人生に大きく影響を与えてくれた本」であったり、「感銘を受けた偉人や師の一言」等を見聞きすることがありますが、自身の心に刺さった言葉、影響を与えてくれた言葉は生涯忘れないものだと思います。この本を通じて強く感じたことは、「自分自身を知ることの重要性、豊かな心とは、そして自分の心のささえは何?」を考えさせてくれ、その後の仕事や生活に大きく影響を与えてくれたと思っています。いろいろな人と出会い、さまざまな出来事を経験しますが、悩んだり困難な場面に遭遇した時は、勢いや衝動的に判断する前に一旦立ち止まり、時には(後悔先に立たずの考えで)自分を見つめ直す時間があってもよいと思います。パスカルの「人間は考える葦である(考えることこそが人間に与えられた偉大な力である)」の言葉のとおり、考えて出した結論であるからこそ自分自身が納得できるものとなります。(安全安心につながる)

 自身の健康を守ること、社会のマナーやモラルを守ること、自身や家族の生活を守るべく仕事をして収入を得ること、そして自己及び周囲の人の命(危険場面の回避)を守ることなど、全ての行為が自己及び社会の安全安心につながることになると考えます。すべての人が是非、自身の「心のささえ」となる本を見つけ、そして力となる言葉を見つけてほしいと切に願います。

 

【TORCH Vol. 164】「私に勇気をくれた作品紹介」

                                                                             体育学科 講師 江尻 沙和香

 私は幼い頃から本を読むことが大好きでした。幼少期には両親が絵本をたくさん読み聞かせてくれたり、多くの本を買い与えてくれたりしたことで、自然と読書が生活の一部になりました。小学生から大学生にかけては、スポーツ関連の単行本や雑誌、エッセイ、ケータイ小説、ファッション誌など、幅広いジャンルに興味を持って読み漁りました。現在はそれらに加えて、ビジネス書や教育に関する文献にも関心を持つようになっています。 その中でも特にエッセイを読むことが多く、著者の生き方や考え方に触れることで、自分の凝り固まった思考が柔らかくなったり、新しい発見につながったりするのが魅力だと感じています。そして特にエッセイの中でも、林真理子さんの本が大好きです。代表作には、『ルンルンを買っておうちに帰ろう』、『野心のすすめ』、『最高のオバハン 中島ハルコはまだ懲りていない!』などがあり、ドラマ化された小説も手がけています。もちろん、ドラマも欠かさず全話視聴しました。林真理子さんの作品は、女性の視点から仕事や結婚にまつわる葛藤や、人間の繊細な心理を率直に描き出しています。さらに、巧みな文章表現によって、思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアが散りばめられています。その中でも、今回は、私自身が勇気をもらった1冊をピックアップし、その中で最も印象に残った章を紹介します。

紹介本タイトル:『過剰な二人』 林真理子×見城徹

●第3章最後に勝つための作戦

「人がやりそうにないことをやる」 pp.138-142
私自身、幼少期から突拍子のないこと、他人から「えっ⁈」と思われるような言動をするタイプです・・・。しかし、自信が持てない案件では、つい周囲と似たような形にまとめてしまい、後から他の人がオリジナリティ溢れたアイデアを出してしまい、「自分の考えを素直に出せば良かった」と後悔したことが多々あります。似たような経験を持つ人はきっと多いのではないかと感じます。しかし、この章を読むと、自分らしさを出すことへの勇気が湧きました。その内容を以下に要約しました。

『人がやりそうにないことをやる、これは林真理子さんが世に出るための戦略だった。なんとなく思いついたアイデアは、たいていありふれていて、いくら自分が良いと思っても、同じようなことを考える人は多々いる。林真理子さんは、尊敬する超一流コピーライターの目に留まるために、服装、髪型、出される課題に対して必死に工夫を取り入れた。そして、作詞が課題となった際に、他の人が書いてくるのであろう詞を予想し、違う雰囲気の詞を書き、「絶対にウケるはず」と意気込んだが、まさかのしーんと静まりかえり、誰も笑わないという状況だった。しかし、その尊敬する超一流コピーライターだけは、「君、面白いよ」とほめてくれた。その出来事が大きな転機となった。やはり、何かを持つということは大事である』

 私は、この章を読んだ後に、自分らしさ、独自性を出すことは素晴らしいことであり、自由に生きるための必須事項だと感じました。現在社会人である私も、今後社会に飛び出す大学生も、「こんなことを発言したら他人から変な風に思われるかも・・・」、「自分の考え方は独特すぎるかな・・・?」と迷っても、まずは自分の考えを第一に尊重し、発信して欲しいと思います。その経験が、後々自分の成長に大きな影響を与えることもあり得ます。また、独自のアイデアを打ち出すことで、組織に新しい風を吹かせることにも繋がる可能性もあります。たとえ誰からも共感が得られなくても、自分の本音や考えに向き合い続けることは大切であり、きっと自己成長に繋がります。この章は、これから社会人を目指す大学生に勇気づける内容だと思い、紹介しました。

●第4章「運」をつかむために必要なこと

「運はコントロールできる」 pp.198-202
 このページの冒頭に、「これから私は、人生における大きな真実を、はっきり言おうと思います。私は、運命の正体を知っています。それは意志なのです」と書かれていました。私は初めてこの文章を見た時に、「運って、偶然じゃないの⁉コントロールなんかできないでしょ」と疑いました。しかし、続けて読んでいくと「確かにそうだわ・・・」と納得してしまいました。その内容を以下に要約しました。

『運とは自分からつかみに行こうとしなければ通り過ぎてしまう。本当はこうなりたい、今の状態は不本意だと思っていても望むような変化が起きない場合には、実はその状況は自分自身が作り出してしまっているのではないか?自分から何もしなければ何も起きない、まじめにじっと待っていれば、いつか幸運がめぐってくるなどというのは、おとぎ話にしかすぎない。おとぎ話から現実の世界に飛び出すこと、これが意志の力で運をつかむことだと思う。幸運とは、強い意志を持つ人にめぐってくる』
私はこの章を読んだ後に、自分が「ツイてる!」と思える出来事が起こった時期は、やりたいことに対して常に敏感でアンテナを張っていたことを思い出しました。逆に、中途半端な頑張り方をしていた、考えているだけで行動に移さない時間が長くなればなるほど、「もういいや」と冷めて終わってしまう経験もしました。また、周囲の成功している人達の中で、「自分は運が良かった」と言っている人、客観的に見て「この人、運が良いよなー」と見える人ほど、実は強い意志を持って他人の見えないところで行動し続けていたのではないか?と気づきました。

 以上、私が勇気をもらった1冊、最も印象に残った章についての紹介でした。林真理子さんの全作品おすすめですので、ぜひ手に取っていただきたいです。また、読書は、教養を深めると同時に、心を落ち着かせることも実感しています。
皆さん、ぜひ読書を楽しんでください!

本タイトル:『過剰な二人』 林真理子×見城徹
発行者:渡瀬昌彦
発行所:講談社

2025年11月7日金曜日

【TORCH Vol. 163】「図書館を活用し学びを深める」

                        健康福祉学科 助教 田中亨

学生の皆さんは普段本を読んでいますか?
定期的に本を読んでいる人もいれば、本を読むことが苦手(馴染みがない)な人もいるのではないでしょうか。分厚い本や文字だけの本を読むことは億劫になってしまうかもしれません。

まずは「興味が湧く」「読みやすい」本や雑誌を見つけてみるのはどうでしょうか。

私が体育大生の頃から、楽しくよく読んでいたのが雑誌「Tarzan」でした。毎回テーマが異なり、健康情報、トレーニング、コンディショニング、トレンド情報など様々な内容が含まれています。内容が簡潔に記載されており、より深くまで知りたいときや信憑性を確認するためにはその分野の本や研究論文を探してみるのも良いと思います。

体育大生の皆さんは将来、体育教員、スポーツクラブ、福祉系、栄養系などの職に就く人もいるでしょう。身体のことについては一つでも多くの知識を持ち合わせておく必要があると思います。

図書館は読書だけでなく、資格試験や採用試験の勉強などにも利用できる場所です。
図書館を活用して、より一層学びを深めていただければと思います。

2025年10月22日水曜日

【TORCH Vol. 162】「戦後80年で考える戦争とフェイク」

                                                           スポーツ情報マスメディア学科 教授 横山義則

第二次世界大戦から80年の今年、世界ではロシアのウクライナ侵攻やイスラエルのガザ侵攻、そしてインドとパキスタンの軍事衝突など、いまだ戦火が収まることはなく多くの人が命を落としている。緊迫する戦況の中で核兵器の使用が現実味を帯び、まさに危機的な状況ではないのか。

そこで核抑止論はどういった理屈で成り立っているのか、改めて考えるために『「核抑止論」の虚構』(豊下楢彦 集英社新書)を読んだ。

核抑止とは、相手方が核攻撃を仕掛けてくる場合に、より破壊的な報復核攻撃を加えるという脅しをかけることによって攻撃を抑えるというものである。

そこで重要となるのが「脅しの信憑性」となる。泥沼化するベトナム戦争において、リチャード・ニクソン大統領は、「北ベトナムに対し、戦争を終わらせるためならどんなことでもやりかねないところまできている、と信じ込ませたいのだ。(中略)怒りだしたら手がつけられない、しかも核のボタンに手をかけているのだと」このように側近に話したとされている。これが「狂人理論」と呼ばれるもので、何をしでかすかわからないと思わせ「脅しの信憑性」を得るというものである。

つまり核抑止論とは、核兵器を持つ者同士が、実は互いに「狂人を装っている」ことを前提とする“奇妙な信頼関係”によって核兵器の使用を抑えているということになるのではないか。人への猜疑心の強い私などは、核の発射ボタンを司る者の中に「本当の狂人」がいつなんどき現れてもおかしくないと考えてしまう。その時、「核抑止論」は全く成り立たない。

歴史的事実とされていることにも懐疑的なのはジャーナリスト故なのか、今年8月、櫻井よしこ氏が「『南京大虐殺』はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ」とするコラムを新聞に書いた。そこで、時を同じくして出版された『南京事件 新版』(笠原十九司 岩波新書)を読んだ。

南京大虐殺事件、その略称である南京事件は日本の海軍・陸軍が南京爆撃と南京攻略戦、そして南京占領期間において、中国の兵士や民間人に対して行った戦時国際法に違反した不法残虐行為の総体をいう。

旧版が世に出てから28年ぶりとなる新版では、盧溝橋事件をきかっけに始まった日中戦争のなかで南京事件がなぜ起きたのか改めて検証している。中志那方面軍の独断専行で行われた南京攻略戦では、兵站部隊が貧弱であったため、通過地域において戦時国際法に違反する食料等の略奪や虐殺行為が繰り返されたことなど、日本軍の資料に加え被害者・犠牲者の証言を積み上げ、より精緻にその実態に迫っている。また、事件による犠牲者総数の概数を旧版と同じく「十数万以上、それも20万人近いかそれ以上」としつつ、南京“大”虐殺はなかったとする言説の根拠「当時、南京には20万人しかいなかった」に対しては、20万人は南京城内の安全区の人口であり南京市全体の人口ではないと明確に否定する。

日本政府も公式に南京事件を認めているにもかかわらず、南京“大”虐殺はなかったから南京事件自体がなかったと誤認させる発言は、フェイクニュースといっていいのかもしれない。

そもそもフェイクニュースとは何なのか。『フェイクニュースを哲学する-何を信じるべきか』(山田圭一 岩波新書)を読んだ。

フェイクニュースを明確に定義することは難しいのだが、「情報内容の真実性が欠如しており、かつ、情報を正直に伝えようとする意図が欠如している」と定義すると、①偽なる発言で欺こうとしている場合②ミスリードな内容で欺こうとしている場合③偽であり、でたらめである場合④ミスリードであり、でたらめである場合、この4つに分類できるとする。櫻井氏の「南京大虐殺」はなかったとする発言は、本人に欺こうとする意図があったのかどうかはわからないので、③か④になるのだろうか。確かに判断は難しい。

自分に批判的なマスメディアの情報にフェイクニュースを多用しているのがアメリカのトランプ大統領だが、この場合の使われ方は深刻な問題を孕む。彼は、情報が間違っているという事実を主張しているのではなく「やつらの言うことを信じるな!」という命令や勧告として使われていて、中身はどうでもよく感情や直感に重きを置かれ、論理や科学的根拠はないがしろにされている。

このような状況の中で、何を信じればよいのか。著者の山田氏は、フェイクニュースには、情報の真偽に無関心なでたらめが数多く含まれていることを問題視し、インターネット上の情報や意見を結論としてすぐ受け入れるのではなく、まずは真偽の判断を保留する「何が真実なのか結論なのか急がない」ことを主張する。

五味川純平の小説『戦争と人間』の中で、満州事変で戦死する兄が出征前に一人残していく幼い弟にかけた言葉が思い出された。

「信じるなよ、男でも、女でも、思想でも、本当によくわかるまで、わかりが遅いってことは恥じゃない。後悔しないためのたった一つの方法だ」

 

2025年10月8日水曜日

【TORCH Vol. 161】「あなたの『居場所』は見つかりましたか?」

 子ども運動教育学科 講師 宮田洋之


大学に入って、新しい環境で友達を作るのに苦労していませんか。サークル、部活、ゼミ活動等において「なんか自分だけ浮いてるかも」と感じたことはありませんか?あるいは、SNSで他人の充実した日々を見て、「みんな楽しそうなのに、自分だけ...」と落ち込んだりしていませんか?

今日は、そんなあなたに「アドラー心理学」という心理学の話をしたいと思います。アルフレッド・アドラーは、フロイトやユングと並ぶ心理学の巨匠でありながら、日本ではあまり知られていませんでした。しかし近年、『嫌われる勇気』という書籍がベストセラーになり、注目を集めています。

アドラーは「過去のトラウマ」に縛られる考え方を否定し「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」と断言しました。そして、対人関係を改善していくための具体的な方法を示したのです。人間関係に悩む現代の私たち、特に新しい環境で人間関係を築いていく大学生にとって、とても役立つ考え方だと思います。

 

あなたは何のために、その行動をしているのでしょうか?

 

アドラー心理学には「目的論」という考え方があります。人は過去の原因に縛られて行動するのではなく、未来の目的に向かって行動しているという考え方です。例えば、あなたが授業中に突然スマホをいじり始めたとします。「授業がつまらないから」というのは原因論的な説明です。でもアドラーは違う見方をします。「注目を集めたいから」「先生に反抗して自分の強さを示したいから」という目的があると考えるのです。

人間関係で悩んでいるあなたも、ちょっと考えてみてください。SNSに「疲れた」「もうダメかも」って投稿するのは、本当に疲れているからでしょうか?それとも、誰かに心配してほしい、注目してほしいという目的があるのではないでしょうか?

ここでの解決の糸口は、まず自分の行動の目的に気づくことです。「私は今、何を求めて、この行動をしているのだろう?」と自分に問いかけてみてください。目的がわかれば、もっと適切な方法で、その目的を達成できるかもしれません。注目してほしいなら、困った行動ではなく、授業での発言や何らかの活動への積極的な参加など、建設的な方法で注目を集めることができるはずです。

 

「所属欲求」という、人間の根源的な願い

 

アドラーは言います。人間には「集団の中に居場所がある」という所属欲求があると。この欲求は時として、食欲や睡眠欲よりも強いのです。人は孤立を深く恐れ、どこかに所属していたいと強く願う生き物なのです。

あなたが今、人間関係で悩んでいるなら、それはこの所属欲求が満たされていないのかもしれません。「ここに自分の居場所はあるのか?」「自分はこの集団に受け入れられているのか?」という不安が、あなたを苦しめているのではないでしょうか。

この悩みへの解決の糸口は、小さな所属から始めることです。

いきなり大きな集団に溶け込もうとしなくても大丈夫です。まずは、一人でもいい、気の合う友人を見つけてみましょう。図書館で一緒に勉強する仲間を作るのもいいでしょう。小さな所属感が、やがてあなたの自信となり、より広い人間関係へとつながっていきます。

 

三つの課題を、ちゃんとこなせていますか?

 

アドラーは、人間には三つのライフタスク(人生の課題)があると言いました。

一つ目は「仕事」のタスクです。大学生のあなたにとっては、勉強がそれにあたります。ゼミの発表準備やレポート、サークルの運営なども含まれます。社会や集団への貢献を意味する課題です。

二つ目は「友情」のタスクです。他者との良好な関係を作ること。友達だけではありません。先輩や後輩、教員との関係も含まれます。

三つ目は「愛情」のタスクです。家族との関係、恋人との関係がこれにあたります。

この三つがうまく回っていると、人は安定します。でも、一つでも欠けると不安定になっていきます。逆に言えば、一つがうまく動き始めると、他にもいい影響を与えます。

ここでの解決の糸口は、今できていることから始めることです。三つ全部がうまくいっていないと感じても、焦らないでください。例えば、人間関係がうまくいっていなくても、まずは勉強に集中してみる。レポートをきちんと仕上げる、授業に真面目に参加する。そうした「仕事」のタスクに取り組むことで、自信がついてきます。その自信が、友達に話しかける勇気につながるかもしれません。あるいは、家族に電話をかけてみる。「愛情」のタスクを満たすことで、心が安定し、大学での人間関係も改善していくかもしれません。一つずつ、できることから始めましょう。

 

あなたには、適切な行動を選ぶ「勇気」があります

 

アドラー心理学のキーワードに「勇気づけ」というものがあります。これは、どんな人であっても、自分には適切な行動を選択し、実行する力があると気づかせることです。

あなたも同じです。今は人間関係で悩んでいるかもしれません。でもあなたには、適切な行動を選ぶ力があります。一歩を踏み出す勇気があります。完璧じゃなくていいのです。人は不完全で、失敗するものですから。大事なのは、あなたがあなた自身の存在に価値を見出すこと。立派なことをした時だけ認められるのではありません。あなたはそこに存在するだけで、価値があるのです。

最後の解決の糸口は、小さな成功体験を積み重ねることです。今日、誰かに挨拶をしてみる。授業で一度手を挙げてみる。困っている友人に声をかけてみる。そんな小さなことでいいのです。その小さな行動が、あなたの勇気を育てていきます。失敗しても大丈夫。次はもっとうまくできるはずです。そして、うまくいった時は、自分を褒めてあげてください。「今日、よくやった」と。

 

最後に

 

あなたの周りには、必ず居場所があります。もし今いる場所がしっくりこないなら、別の場所を探してもいいのです。でも忘れないでください。あなたはその集団の一員として、何か貢献できることがあるということを。

今日から少しずつ、あなたの「居場所」を作っていきましょう。一人で悩まず、周りの人にも相談してみてください。学生相談室だって、いつでもあなたを待っています。あなたには幸せになる方法を見つける力がある。そう、アドラーは信じていますし、私も信じています。