2020年9月7日月曜日

【TORCH Vol.121】 競技人生と向き合う ~たった一人のオリンピック~

講師 田口直樹


 新型コロナで2020東京オリンピックは延期となりました。アスリートたちはさまざまな困難に立ち向かい日々練習に励んでいます。このような混乱はかつてモスクワオリンピック代表選手になりながら出場を奪われたアスリートたちにもありました。時代に翻弄されながらも懸命に生きた彼らの激動の人生を紹介したいと思います。


本書「たった一人のオリンピック(角川新書)」は「江夏の21球」で知られる山際淳司氏のオリンピックにまつわる作品を集めた短編集です。今改めて読んでみると学生の時に読んだ時とはまた違った感情が湧いてきます。その中の「真夜中のスポーツライター」にはオリンピックを印象づけるこんな一文があります。


「生活を保証されたうえで、のびのびとメダルを目ざす選手がいる。その対極に、シビアな選択を迫られ、なおかつオリンピックを目ざそうという選手がいる。その両方を見ていかないと、オリンピックという大舞台の魅力は伝わってこない。」


オリンピックの華やかな舞台の裏で、オリンピックに人生を懸けた若者がいました。

本書「たった一人のオリンピック」の主人公はふとオリンピックに出ることを決意します。

物事を決断するきっかけは偶然やってくることがあります。どこで何があるかわからない。

ふと決意するぐらいの魅力がオリンピックにはあるのです。

そして決意してから5年で1980年モスクワオリンピックの代表を勝ち取ることとなりました。本気でオリンピックを目指し挑戦することで誰にでも代表になるチャンスがあるのです。そういった一心不乱に目標に向かうアスリートの美しさに魅了される一方で、競技以外を犠牲にして葛藤する場面もみられます。まさにアスリートは表裏一体であることがわかります。そんな極限状態の中、モスクワオリンピックボイコットとなり出場が絶たれたわけです。


また同じく幻のモスクワオリンピック棒高跳びの代表選手をえがいた「ポール・ヴォルター」にも主人公の苦悩が読み取れる一文があります。


「むなしかったんですよ。何もかもが。なぜぼくはこんなところで走っていなければならないのか。なぜ高く跳ばなければならないのか。ぼくにはわからなくなってしまったんですね。新しい記録を作った。それはいい。それだからどうしたというのか。そこまでいけば、ぼくはもっと自信をもてるようになるんじゃないかと思っていた。もっと自信にあふれて生きているはずだった。でも何も変わらないんです。」


40年経った2020年においてもシビアな選択の中、2021東京オリンピックを目指すアスリートたちがいます。オリンピアンも例外ではありません。延期によって生活状況が一変し、日々の暮らしやモチベーション維持に苦慮しながらも奮闘するアスリートたちがいます。大学生アスリートにとっても将来へのさまざまな選択を迫られることになるかもしれません。


アスリートにとってオリンピックとはなにか?

アスリートにとって競技人生とはなにか?


今、自分の競技人生と向き合うための書として推薦したいと思います。


2020年9月1日火曜日

【TORCH Vol.120】 モモ ミヒャエル・エンデ作(岩波少年文庫)

助教  加畑 碧


Gemütliche zeit(ゲミュートリッヒ ツァイト) 居心地の良い時間

Hektisch zeit(ヘクティシュ ツァイト) せかせかとした時間

この物語の重要なテーマのうちの一つである〈時間〉。それにかかわるドイツ語の言葉です。

今回紹介する〈モモ〉という小説は、ドイツの小説家ミヒャエル・エンデが1973年に書いた小説です。小学5・6年生以上を対象とした児童文学とされていますが、どの年代の人が読んでも何か感じるものがある、深みのある作品だと思います。


主人公はモモという不思議な力を持った小さな女の子。その周りに暮らす人々は、貧しいながらも互いに支え合い、たのしく日々を過ごしていました。しかし、そんなモモの友だちのもとに〈時間泥棒〉の影が忍び寄り、モモの友だちの大切な時間は盗まれていきます。時間を盗まれた人々は責め立てられるように時間を節約しながら、せかせか〈Hektisch〉と日々を過ごすようになっていってしまいます。そんな友だちを救うべく、小さなモモは時間を取り戻すための戦いに立ち向かいます。


物語はファンタジーの要素をはらみながら、時にゆったりと、時にテンポよく、緩急を持ちながら進んでいきます。しかしその随所に現代社会への風刺がちりばめられ、〈豊かさ〉とは何か、本当に大切にしていきたいものとは何なのかを私たち問いかけてくるようです。

便利な世の中のなかで効率的に、さまざまなものはすぐ与えられ、すぐに手に入るなか、失っているものと、その事実にすら気づいていないのかもしれないという事実。よく味わいもせずにのみ込んで、こころはガサついてはいないかと一旦立ち止まる暇さえ与えられないような物語の中のひとびと。すべてに違和感を持ちながらも、きっと皆さんにとっても、他人ごとではないことばかりだと思います。


私自身、まだまだこのお話を読んで、咀嚼しきれていないようなザラつきがのこっている感じがしています。きっとこれからますます時間をかけて、深みを増していけるような、深みを増していけたらと思うような作品です。皆さん自身はこの作品から何を感じるのか、時間をかけて話を交わすことができたら、私はとてもうれしいです。


【TORCH Vol.119】 "It is not the length of life, but depth of life."

 教授  千田 孝彦


 混迷の時代だからこそ「生き方」を問い直す,のプロローグで始まる、稲盛和夫氏の「生き方」(サンマーク出版)は、誰もが、生きていく上で、考えたり、悩んだりすることに対して、人間として正しい生き方、あるべき姿とは何かを分かりやすく述べています。

 この本には、共感することがたくさんあり、その中のひとつを紹介したいと思います。

 ″人生をよりよく生き、幸福とう果実を得るには、どうすればよいのか。″ということについて、彼は、次のような方程式で表現しています。

         人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力

 つまり、人生や仕事の成果は、これら三つの要素の ″掛け算″によって得られるものであり、けっして、″足し算″ではないのです。

まず、能力とは、先天的に与えられる知能、運動神経、健康のこと。熱意とは、事をなそうとする情念や努力する心のことであり、これは自分の意志でコントロールできる後天的要素。そして、最初の「考え方」とは、心のあり方、生きる姿勢のことであり、三つの要素のなかでは最も大事なもので、この考え方次第で人生は決まってしまう。「プラス方向」の考え方が人生を大きく左右する。では、これは、どういう考え方なのでしょうか。知りたい人は、ぜひ、自分自身でこの本を読んで、確認してみてください。

 これから進路希望を達成するために、今、大切なのは、大学での知識習得を通して、学生諸君一人一人がチャレンジ精神を養うことです。

つまり、自分の志望する進路対象が遠隔試験による選抜を要求しているのなら、理屈ぬきでやってやろうではないかという気概を強く持つこと。そして、そのために努力することを決して忘れずに日々実践して欲しい。何故ならば、この努力する喜びは、人間の様々な可能性を引き出してくれる原動力となるものだからです。

 はっきりと将来への志望を持つことは確かに大切ですが、社会がそれを十分に受け入れてくれるとは限りません。また、自分の能力・個性がどのように養われていくか、志望も今後どう変わっていくか分りません。そのような中で、自分の可能性が本当にチャンスになるためには、大学でのすべての授業に言い訳することなくしっかり集中することが何よりも大切であります。そして、学生諸君は、進路実現に向けて最後まで諦めずに粘り強く努力をして欲しいと願っています。

 このように、あることをするのには、①「努力してやる」、②「好きでやる」、③「楽しんでやる」の三段階があり、それぞれが大切ですが、「努力」なくして物事は成就しないものです。しかし、孔子の言葉に「楽しむに如かず」、つまり、「努力して勉強している者は、それが好きで勉強している者には敵わない。また好きでやっているものでも、楽しんでやっている者には敵わない」という言葉が示すように、それが楽しんでやることができるようになれば最高のことです。どんなことでも楽しんでやれるようになりたいものです。これを「悟りの境地」と言います。

 本学の学生諸君に実践して欲しいことが二つあります。ひとつは「努力」であり、もうひとつは、「向上心」です。向上心とは現状に満足しないで、向上進歩しようとする心のことであり、人間は誰でも向上心というすばらしい宝を持っています。では、人間の「向上心」というガソリンに点火するのは、その人の熱意・執念・志が必要です。そして、熱意は、その人の信念、使命感、理想、希望、大志、思想、ビジョンといったものから生まれます。心のあり方が熱意の素になります。人間の心とは、誠に不思議なもので、目に見えない、手で触れない、頭の中にある心というものすべての原動力になっていると考えられます。

  人生は限られていますが、生き方は無限です。


つまり、"It is not the length of life, but depth of life."  ( by Samuel Ullman )

       (人生とはその長さではなく、その深さが大切) 


 だからこそ、学生諸君には、誰でもが持っている「向上心」を大いに生かして、これからの人生を志高く切り開いていくことを期待します。

 そして、東北・北海道唯一の総合的な体育大学で学んでいることを一人一人が自覚して、自信と誇りを持ち、本学の「体育スポーツ健康科学」という専攻領域において、学生諸君が日々成長できるように、これまでの教育経験を活かして、教員として手助けしていきたいと思います。



2020年1月28日火曜日

【TORCH Vol.118】教師をめざす皆さんへ 


                        教授  高橋 仁


教師をめざす皆さんへ


「働き方改革」という言葉をよく耳にするようになりました。「働き方改革関連法」と言われる一連の法律も成立し、働く人々のワーク・ライフ・バランスの実現、公正な待遇の確保をめざす、とされています。この「働き方改革」は、学校で仕事をしている教師についても例外ではないということで、これまで教師が担ってきた業務の見直しについても議論されています。
石油をはじめ多くの資源を持たない日本では「人づくり」が何よりも重要であり、その「人づくり」の場である学校教育に対し、保護者をはじめ地域社会は大きな期待を寄せてきました。学校では、その期待に応えるためにスポーツをはじめいろいろなものを学校教育の中に取り込んできました。しかし、時代の変化とともに学校への期待や要望も一層多様になり、そのすべてに応えることが困難な状況になっています。このような学校をとりまく環境の変化を踏まえ、「働き方改革」の一環として、学校、そしてそこで働く教師がやるべきことは何なのかをもう一度考え直そう、という議論が進んでいます。
このこと自体は必要な事であり、教師にもワーク・ライフ・バランスが必要だという考え方にも私は同感ですが、その一方で、少し違和感もあります。教師の仕事は、単に「時間」で区切ることのできないものです。いざというときには子どものために何をおいてもかけつけるという「覚悟」と「実践」が求められるものであり、そこに職業としての価値とやりがいもあるのではないかと考えています。教師の在り方について、この点も踏まえた深い議論が展開されることを願っています。
かなり前になりますが、本屋さんで「大村はま」という教師が書いた「灯し続ける言葉」という本を見つけました。とても分かりやすい言葉で、教師としての「覚悟」と「実践」を私に問いかけてきました。それから現在まで、時々読み返しては自らを振り返り、「襟を正す」機会にしています。教師を目指す皆さんにもぜひ読んでほしい一冊です。
この本の一節を紹介します。

教師の仕事は、生きている子どもに生きた知恵を育てることです。そのためには、初々しい感動、新しい命のようなものが教師の側にないと、子どもを惹きつけられません。
学者の方でしたら、研究を深める、高めるとうことでいいのでしょうが、教師の場合はちょっと違います。何度も読んだ教材、何度も感動した作品であっても、教室に持っていくときは、新しく加わった感動が必要なのです。今日の太陽が昇って、昨日の自分とは違う新しい自分がいる、そういう激しい成長力のようなものが子どもを動かします。これまで研究して蓄えてきた知恵が、そこで初めて生きた力となって、子どもに伝わります。
人を育てるというのはそういうことです。積み重ねた努力、人柄の良さや、研究の深さ、子どもへの愛情、そういったもの何もかもを生かすには、今日の新たな一滴が要るのです。





2019年11月22日金曜日

【TORCH Vol.117】剣道から学んだこと ~1冊の本との再会~ 荒木 貞義


                      現代武道学科 准教授 荒木 貞義


図書館での再会



仙台大学に着任後、図書館で私に衝撃的な出会いがあった、1冊の本である。

岡村忠典先生の『剣道教室』が、図書館の書棚の隅にあった。

その本は、私が大学時代に剣道の指導をいただいた恩師の著書である。

東京を離れ、まさかここで目にするとは思いもせず、不安を感じながら赴任してきた私は、恩師に出会えたような気持ちになった。



この『剣道教室』の内容は、剣道の指導法や練習法について、現代的視点から正しい技術の習得のしかたや、新しい剣道修練のあり方についてまとめられたもので、「剣道は教育である」という立場をとっている。

剣道が個人の限りない人間育成と社会発展に寄与するものでなければならないとし、剣道の練習は何のためにやるのか、続けていたらどのようになるのかを考えるように述べられている。



 全日本剣道連盟は、「剣道の理念」・「剣道修練の心構え」を発表している。(昭和50年3月20日制定)

「剣道の理念」

剣道とは剣の理法の修練による人間形成の道である

「剣道修練の心構え」

剣道を正しく真剣に学び

心身を錬磨して旺盛なる気力を養い

剣道の特性を通じて礼節をとうとび

信義を重んじ誠を尽して

常に自己の修練に努め

以って国家社会を愛して

広く人類の平和繁栄に

寄与せんとするものである



『剣道教室』では、剣道の練習を続けることによってどのような影響があるのかは、人によって違った結果が出ることがあるかもしれない。その人がどのような態度で、どのような方法で、どのような指導者によるかによっても差がでてくる。したがって、一番大切なことは、「正しく、真剣に学ぶ」ということに徹することであり、ただひたすら一生懸命に剣道に打ち込むようにと述べた上で、3つの効果を解説している。

     身体的な面からみた効果

      ・敏しょう性と巧緻性の育成

・瞬発力の育成

・持久力の育成

・正しい姿勢の育成

     精神的な面からみた効果

      ・努力の習慣と忍耐力の増加

・気力が高まる

・集中力と決断力と自主性の育成

     社会的な面からみた効果

      ・責任感と協調性の育成

・相手を尊重し礼儀を重んずる態度の育成

・健康安全に対する態度の育成



学生時代の私は、「強くなりたい」「試合に勝ちたい」と技術に関することばかり考えていた。

岡村先生からは、日々の稽古を通じて「正しい剣道」・「生涯剣道」について指導していただいていたが、当時勝手に理解していた私は、その後「剣道とは何か」「剣道の練習は何のためにやるのか」について、剣道の奥深さを知ることになる。



剣道を通した経験



大学卒業後、皇宮警察に入ってからも剣道を続けることができた。

警察剣道の目的は、技術の向上もさることながら、体力・気力を養い、規律・礼節を身に付けた皇宮護衛官を育成することにより、警察組織の執行力の向上に寄与することにある。

単に体力・技術の向上や勝敗の結果のみにとらわれるものではなく、皇宮護衛官としての職務「皇室守護」に直結したものでなければならないということである。

皇宮護衛官は、現場に臨んだとき、凶徒に対して臆することなく怯まずに制圧逮捕することは当然であり、有事の際にも常に平常心を失うことなく、冷静沈着、且つ、迅速的確なる処置を講じなければならない。また、常に敬意や愛情を持って接することが必要であり、真に国民から信頼される強い皇宮護衛官でなければならないのである。そのためには、平素から真剣に剣道の稽古に励むことが大切であり、日々の訓練を通じて強靭な体力を養い、技術(目付、間合、体捌きや打突など皇宮護衛官の職務執行に必要な剣道の基本的技術)を修得することが必要である。

これらの根底にあるのは、「剣道の理念」・「剣道修練の心構え」である。



特別訓練員として選ばれていた期間には、日本を代表する多くの選手や、先生方と稽古をすることができた。

また、済寧館(皇居内にある道場)で行われた「天覧試合」に出場することもでき、平成12年には、天皇皇后両陛下の外国御訪問の際、側衛官(側近護衛を担当する皇宮護衛官)として同行し、フィンランド国ご滞在中に、当時の首席随員として随行された橋本元総理大臣と同国の剣友と稽古するという特別な経験もさせていただいた。なんと政府専用機内に剣道の防具を積み込んだのは、この時が初めてだったらしい。

同国での稽古状況については、帰国途上の専用機内で首席髄員から両陛下へご説明され、その場で両陛下から「お言葉」をかけて頂けた。

後日談となるが、側衛官は、両陛下から名前で呼ばれることはないのだが、それ以降退官するまで、しばしば「剣道の荒木さん…」と呼ばれた。

このことは、私にとって生涯忘れることができない。

このような数々の貴重な経験ができたことは、剣道を辞めずに続けてこれたおかげだと思う。

今まで指導をしていただいた先生方や、剣道を続けさせてくれた家族に対し、感謝の気持ちでいっぱいである。



私は剣道を指導するにあたり、試合に勝つことも大切なことだと思うが、剣道の真の目的は、「何か人のためになる人間に成長すること」と伝えていきたいと考えている。



図書館で『剣道教室』と再会したことで、剣道から学んできた原点に再び振り返ることができた。

2019年9月28日土曜日

【TORCH Vol.116】第4次産業革命とインパクト 金 一坤



                       現代武道学科  講師  金 一坤



この書籍は、私が未来産業のトレンドを知るため、ふと、入手した一冊の本であり、4次産業革命が我々社会にもたらす多様なインパクトについて興味深く耽読できた。さらに、5年後である2024年までに革新される産業革命データを用いて語っているのでわかりやすい。

2020年度東京オリンピックを前に控えていて、最近、我々は「第4次産業革命」という言葉をよく耳にしているだろう。AIICT、5Gといった最先端技術の実現によって未来社会は生産、販売、消費といった経済活動に加え、健康、医療、公共サービス等の幅広い分野や、人々の働き方、ライフスタイルにも影響を与えると考えられる。 

しかしながら、「第4次産業革命」技術系の話をすると多くの人らは、それを別世界の話にしたり、また興味があっても、余りにも抽象的で難しく思い込んでしまい興味をなくしてしまうことも頻繁である。 

4次産業革命時代の到来にあたり、内閣府は第4次産業革命を、ICTの発達により、様々な経済活動等を逐一データ化し、そうしたビッグデータを、インターネット等を通じて集約した上で分析・活用することにより、新たな経済価値が生まれると述べている。また、AIにビッグデータを与えることにより、単なる情報解析だけでなく、複雑な判断を伴う労働やサービスの機械による提供が可能となるとともに、様々な社会問題等の解決に資することが期待できる。

つまり、社会全体でみると、高齢者にとっては、第4次産業革命の恩恵は相対的に大きいとみられる。具体的には、ウェアラブルによる健康管理、見守りサービスによる安心の提供、自動運転による配車サービスなど公共交通以外の移動手段の普及などにより、高齢者も活き活きと生活できる環境の整備が進むものと期待できる。









[1. 4次産業革命の技術革新のコア]




20161月に決定した「第5期科学技術基本計画」においては、「超スマート社会」、「Society 5.0」を打ち出している。少子高齢化が進む日本において、個人が活き活きと暮らせる豊かな社会を実現するためには、IoTの普及などにみられるシステム化やネットワーク化の取組を、ものづくり分野だけでなく、様々な分野に広げることにより、経済成長や健康長寿社会の形成等につなげ、人々に豊かさをもたらす超スマート社会実現に取り組んでいる。

この書籍はすでに4次産業革命は始まり、2024年に向けてデジタルトランズフォーメーション(デジタル転換技術社会) 変化が起きつつ、今まで認知出来なかったデジタル革命、eスポーツの台頭、次世代ITとしての宇宙ビジネス、農業革命となるAgritech(アグリテック)、産業用ドローンなどの革新技術がもたらす未来新産業について次のように語っている。



一つ目は、デジタル革命である。「デジタル革命」とは、デジタル技術を駆使して、継続的成長が可能な企業に生まれ変わることである。このミッションを実現するため、経営理念や哲学に則り、磨くべき事業に資源を集中させ、それ以外の事業は縮減させている。そして、社員の再教育し、再配置している。そこで今後、求められる人材は、デジタル技術を正しく理解し、正しく駆使できるデジタル人材でる。いわゆる多様なデジタル機器を使える「デジタルネイティブ」人材が必要とされていることである。果たして我々は腹をくくって、デジテル技術の勉強を始めようとしているだろうか。



二つ目は、台頭するeスポーツ産業である。「eスポーツ」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指し、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称である。日本国内では、まだ認知が不十分でないものの、海外に目を向けると他のプロスポーツなどに引けを取らない人気を博している国もあるほど、急速に存在感が高まっている。すでに2018年アジア競技大会(ジャカルタ)では、デモンストレーション種目として採用され、2022年大会(中国)では正式にメダル種目として決定された。また、2024年に開催されるオリンピック・パラリンピックの新種目としても採用の検討をされており、世界中で盛り上がりを見せている。従って今後、かつてゲーム大国であった日本がeスポーツ大国となることも十分あり得るだろう。



三つ目は、次世代ITとしての宇宙ビジネスである。「宇宙ビジネス」は、人口衛星発射及び深宇宙探査などを目的として、今まで国の政府主導の色が濃い産業であった。しかし、2017年度から民間主導の宇宙ビジネスが活発なりつつ、ビジネス領域も拡大している。特にインターネット未普及地域におけるデータ通信ビジネスアは驚くほどのことである。世界全人口は約76億人(2017年度)のうち、インターネットに接続できない人々は約30億人以上存在していると報告されている。政策上、利用できない国・地域もあるが、多くの驚くにも十分なインフラが未整備の山岳地帯、砂漠などにおいて利用できていない。そのようななかで注目を集めているのが、衛星による通信ビジネスである。民間宇宙企業は沢山の衛星を打ち上げ、地球を取り囲ませて全世界どこでもインターネットがつながる環境づくりをしている。日本のソフトバンクグループをはじめ多くの企業が2020年サービス展開に取り組んでいる。果たして、来年になると全世界どこに行ってもインターネットがつながるだろうか?



四つ目は、農業の革命となるAgritech(アグリテック)である。Agritech(アグリテック)とは、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた造語である。

生産者の高齢化・減少による労働力不足を背景に農業分野とIT分野の融合は、無限の可能性を秘めており、かなり広範囲で使用されるのが現状である。例えば人工知能やIT、ロボティクスを始めとした最先端テクノロジーを農業に応用させ、効率的農業を目指す事を指す時もある。農業とITテクノロジーが重なり合う事業領域、IT技術に特化した農業分野のスタートアップをする事を指す時もある。またセンサー、ドローン、クラウド、モバイルデバイスを駆使した農業のIoT化も、アグリテックと捉える事ができるのである。



 五つ目は、産業用ドローンである。ここ数年の技術の革新で、空撮ホビー用に使われていたドローンが輸送、測量、空撮・監視、点検・検査、農業などの産業において様々な用途で活用されるようになってきた。政府主導でルールづくりも進んでおり、活用の機運は今後も高まっている。今後、ドローンは人を運ぶ「空飛ぶ車」へと役割が広がる可能性を秘めている。もはや地上ではない空で移動する時代がやってきているといっても過言ではない。



最後に、この本を読んで筆者は、第4次産業革命をさらに理解するようになり、第4次産業革命よって今まで各自機能していた銀行、新聞、メディア、生必品製造企業などのビジネスがいつの間からデジタル化され、直接その場所まで行かなくてもサービス享受が可能になっている。

今後、政府政策のように、2024年にはICT技術を用いて全てが可能となるデジテル時代に生まれ変わるだろる。

この書籍は、将来、社会安全・安心、スポーツ分野を目指す学生諸君にとって、未来社会の変化を参考にした上で、自分の進路決定に役立てればよい。










【参考資料】


内閣府、新たな産業変化への対応、https://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_2_1.html
野村総合研究所、「ITナビゲーター2019年版」、東京:東洋経済新報社、2018

2019年7月8日月曜日

【TORCH Vol.115】私の大切な一冊『旅をする木』星野道夫



体育学科 講師 小勝健司



 この本に出会ったのは、2001年、私が29才の年だった。当時、大学時代の友人が主催していた異業種交流会に、当時勤めていた出版社の上司とともに参加することがあり、その友人が手に持っていた本が、「旅をする木」星野道夫著(文春文庫)だった。上司が、その本をみて「いい本だよね」と言っていたこともあり、後日書店で購入することにしたのだ。



 星野道夫は、大学の先輩にも当たるが、自分の信念に従い自分の人生を歩んだ写真家である。星野が19才の時に神田の古本屋で目にしたアラスカの辺境にあるエスキモーの村の航空写真(シシュマレフ村)に心惹かれ、その村に手紙を出したことがきっかけで、 22才でアラスカ大学野生動物学部に入学し、同時に写真家としてのスタートを切った。その後18年間、アラスカに暮らし、人を寄せ付けない圧倒的な自然やそこで暮らす動物、また、その自然に寄り添う人の営みに対して撮影し発表してゆく。また写真だけでなく、深く優しい文章を書き残したエッセイストでもある。

 1996年の夏、44才でカムチャツカにて熊に襲われ亡くなった星野道夫の代表するエッセイが「旅をする木」であった。その本との出会いは、その後、悩める29才の男の背中を後押しすることになったことは間違いない。

 私が大学を卒業した1990年代後半は、バブルが崩壊し日本社会が大きく変革してゆく過渡期でもあったが、それでも企業では新入社員一括採用、年功序列、終身雇用がまだまだ当たり前とされていた時代だった。しかし私は、1年で最初の会社を辞めた。その後、出版社に就職したものの、29才になっても社会人としてのキャリアプランを構築できずに悶々と過ごしていた。今思うと、大学までサッカーを続けた自己認識に固執しつづけ、社会人へのマインドシフトに失敗したダメな社会人だった。ただ、自分の本質に正直にいたいと思ってきた結果でもあった。

 そんな私であったが、出版社に入社したことで本が好きになった。知識と情報を授かり、ストーリーを楽しみ、作者の思考を覗くこともできる。見知らぬ土地を探索することや他人の人生を体験することも可能となった。さらに、本のどこかに潜んでいる自分の心にとどまる一章節との出会いは、知識と想像力を養い、人生を豊かにするツールとなることを再確信することができた。



 久しぶりに「旅をする木」を本棚から探し出してきた。気になるページの角を折るのは、私の本を読む時の癖である。ページをめくってゆくと、当時のことがリフレインしてくる。

 当時、私の気になったセンテンスをいくつか書き出してみたい。

・『北国の秋』より

[無窮の彼方へ流れゆく時を、めぐる季節で確かに感じることができる。自然とは、なんと粋なはからいをするのだろうと思います。一年に一度、名残惜しく過ぎてゆくものに、この世で何度めぐり合えるのか。その回数をかぞえるほど、人の一生の短さを知ることはないのかもしれません。アラスカの秋は、自分にとって、そんな季節です。]

・『春の知らせ』より

[一羽のベニヒワがマイナス50°の寒気の中でさえずるのも、そこに生命のもつ強さを感じます。けれども、自然はいつも、強さの裏に脆さをひめています。そしてぼくが惹かれるのは、自然や生命のもつその脆さの方です。日々生きているということは、当たり前のことではなくて、実は奇跡的なことのような気がします。]

『もうひとつの時間』より

[ぼくたちが毎日生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。]

・『生まれもった川』より

[人間の風景の面白さとは、私たちの人生がある共通する一点で同じ土俵に立っているからだろう。一点とは、たった一度の一生をより良く生きたいという願いであり、面白さとは、そこから分かれてゆく人間の生き方の無限の多様性である。]

・『ある家族の旅』より

[二十代のはじめ、親友の山での遭難を通して、人間の一生がいかに短いものなのか、そしてある日突然断ち切られるものなのかを僕は、感じとった。私たちは、カレンダーや時計の針で刻まれた時間に生きているのではなく、もと漠然としていて、脆い、それぞれの生命の時間を生きていることを教えてくれた。自分の持ち時間が限られていることを本当に理解した時、それは生きる大きなパワーに転化する可能性を秘めていた。]



 星野道夫の優しく温かい文体は、アラスカの厳しく壮大な自然と日々の風景、悠久の時間の中を生きる人々の暮らしと多様性を描きながら、生命と死に対する作者のメッセージとして強く訴えてくる。日本から遠く離れた異国の話だけではなく、同じ時間を生きる地球上に存在するすべての生き物の原理原則であり、本質的な問いかけと感じた。当時の私にとって、時間的、空間的視座を上げてくれた本であった。

 その年(2001年)の911日、アメリカ合衆国で同時多発テロが起きた。私は、自分にもう一度向き合った。その年、私は会社に退職届けを出し、もう一度サッカーの世界に戻ろうとトレーナーの道に進むことを決意した。



 あれから約20年経過し、ITAI、バイオなどの台頭とともに世界規模で変化のスピードが加速している。より便利に効率的に、成果を追い求める我々の生き方は、物質的豊かさと引き換えに多くのモノを見失っている気がしてならない。本当の豊かさとは何なのか。星野の写真と言葉は、時代の変化とともに違ったメッセージを投げかけてくる。



 「旅をする木」は、自分の生き方を後押ししてくれた大切な本である。このような一冊にいつ出会えるかわからないが、本を通して未知の世界との出会いをこれからも楽しみにしてゆきたい。