2025年12月7日日曜日

【TORCH Vol. 165】「思い出の本との再会」 

                                                            現代武道学科 教授 伊藤 晃弘

 某月某日、仙台大学図書館の各書棚をじっくり探索していた時のこと、「えっ?」なつかしい本と三十数年ぶりの再会を果たしたのです。

 島根県の片田舎から就職で東京へ、数年が経った頃に仕事で区役所に行き、時間に余裕もあったことから近くの図書館に立寄りました。もろもろの不安やストレス解消だったのか、はたまた何か刺激を求めていたのか、記憶も定かではありませんが、本のあら捜しをはじめました。これまで学校の教科書以外で本に接する機会も少なく、大袈裟ですが考えてみますと、小・中学校時代の夏休み課題「読書感想文」以外無いのでは!と思うほどです。

 しばらく見ていると、「心のささえに」の題名で厚さも手頃の本が目に入り、目次が約30あり、それぞれの章は4から5ページで挿絵ありのものでした。館内で読み始めたところ、非常に読み易くはまってしまい、時間の経過も忘れ全て読み終えてしまいました。

 本を読んで感銘を受けた、指標になった、人生が変わったなどの経験をされた方もいるかと思いますが、「竜馬がゆく」や「坂の上の雲」などで有名な司馬遼太郎は、長編小説作品を多数執筆していますが、電車などの通勤時間を有効活用し本に親しんでもらうための短編作品も数多く執筆したといわれています。まさにこの本は、通勤時間や僅かな時間で効率的に読めるものであり、身近な人との交流、日頃の生活での出会いや場面を通じて感じたことが素直に記述され、かつ端的に表現されており、読んでいて「このような感じ方、考え方もあるんだ」との思いを巡らせてくれた本であることに加え、強く記憶に残っている本の一冊でした。この本との再会に感激するとともに、まさかの出会いに「本当にありがとう」の瞬間で、当然すぐに貸出を受け、懐かしくじっくりと読ませていただきました。

 本の紹介やTV番組などで、「人生に大きく影響を与えてくれた本」であったり、「感銘を受けた偉人や師の一言」等を見聞きすることがありますが、自身の心に刺さった言葉、影響を与えてくれた言葉は生涯忘れないものだと思います。

  この本を通じて強く感じたことは、「自分自身を知ることの重要性、豊かな心とは、そして自分の心のささえは何?」を考えさせてくれ、その後の仕事や生活に大きく影響を与えてくれたと思っています。いろいろな人と出会い、さまざまな出来事を経験しますが、悩んだり困難な場面に遭遇した時は、勢いや衝動的に判断する前に一旦立ち止まり、時には(後悔先に立たずの考えで)自分を見つめ直す時間があってもよいと思います。

 パスカルの「人間は考える葦である(考えることこそが人間に与えられた偉大な力である)」の言葉のとおり、考えて出した結論であるからこそ自分自身が納得できるものとなります。(安全安心につながる)

 自身の健康を守ること、社会のマナーやモラルを守ること、自身や家族の生活を守るべく仕事をして収入を得ること、そして自己及び周囲の人の命(危険場面の回避)を守ることなど、全ての行為が自己及び社会の安全安心につながることになると考えす。すべての人が是非、自身の「心のささえ」となる本を見つけ、そして力となる言葉を見つけてほしいと切に願います。

 以上