2020年9月1日火曜日

【TORCH Vol.120】 モモ ミヒャエル・エンデ作(岩波少年文庫)

助教  加畑 碧


Gemütliche zeit(ゲミュートリッヒ ツァイト) 居心地の良い時間

Hektisch zeit(ヘクティシュ ツァイト) せかせかとした時間

この物語の重要なテーマのうちの一つである〈時間〉。それにかかわるドイツ語の言葉です。

今回紹介する〈モモ〉という小説は、ドイツの小説家ミヒャエル・エンデが1973年に書いた小説です。小学5・6年生以上を対象とした児童文学とされていますが、どの年代の人が読んでも何か感じるものがある、深みのある作品だと思います。


主人公はモモという不思議な力を持った小さな女の子。その周りに暮らす人々は、貧しいながらも互いに支え合い、たのしく日々を過ごしていました。しかし、そんなモモの友だちのもとに〈時間泥棒〉の影が忍び寄り、モモの友だちの大切な時間は盗まれていきます。時間を盗まれた人々は責め立てられるように時間を節約しながら、せかせか〈Hektisch〉と日々を過ごすようになっていってしまいます。そんな友だちを救うべく、小さなモモは時間を取り戻すための戦いに立ち向かいます。


物語はファンタジーの要素をはらみながら、時にゆったりと、時にテンポよく、緩急を持ちながら進んでいきます。しかしその随所に現代社会への風刺がちりばめられ、〈豊かさ〉とは何か、本当に大切にしていきたいものとは何なのかを私たち問いかけてくるようです。

便利な世の中のなかで効率的に、さまざまなものはすぐ与えられ、すぐに手に入るなか、失っているものと、その事実にすら気づいていないのかもしれないという事実。よく味わいもせずにのみ込んで、こころはガサついてはいないかと一旦立ち止まる暇さえ与えられないような物語の中のひとびと。すべてに違和感を持ちながらも、きっと皆さんにとっても、他人ごとではないことばかりだと思います。


私自身、まだまだこのお話を読んで、咀嚼しきれていないようなザラつきがのこっている感じがしています。きっとこれからますます時間をかけて、深みを増していけるような、深みを増していけたらと思うような作品です。皆さん自身はこの作品から何を感じるのか、時間をかけて話を交わすことができたら、私はとてもうれしいです。