2015年4月2日木曜日

【TORCH Vol.067】 「アメリカ・メディア・ウォーズ」 ジャーナリズムの現在地 大治朋子 講談社現代新書(2013)

山 内  亨

 新聞を読まない大学生の急増に驚いたのが10数年前。学生のメディア離れはスマートフォンの普及で更にその数と勢いを増し、最近ではテレビを見なくても生活には困らないという声を聴くほどに進行している。
この問題は、学生が「新聞を読まない」「テレビを見ない」と言う「メディア離れ」の現象が指摘されるだけでは不十分で、政治、経済・社会状況に目を向けず、身の回りの感覚世界に安住する「社会離れ」の恐ろしさが指摘されなくてはならない。
国の未来や自分の将来を左右するニュースだけでなく、生活に関わるニュースにすら 関心を寄せない学生の姿が見える。「世の中の出来事はネットで見ているよ」との声も返ってくる。しかし重要な事象を現場で取材したメディア(記者)の一次情報に求めず、ネットに転載されるメディアの情報の一部や、情報を見たフォロアーの書き込み情報で十分とする考えが心配だ。悩ましい事態は日本だけの事では無いようだ。

 大治朋子著『アメリカ・メディア・ウォーズ』ジャーナリズムの現在地(講談社現代新書)はアメリカの新聞メディアの状況を詳しく伝え、日本の近未来を心配する。
アメリカと日本では、新聞の売り方、広告比率など読者の手元に渡るまでのメディアの構造に違いはある。しかしWebをはじめメディアを巡る技術進歩が既存メディアに大きな影響と変化を与えていることは、日米に共通する。
氏の著書から見えるものは「ニュースを伝えるのは誰か」を問いつつ、ネット時代の新聞生き残りをかけるアメリカでの厳しい戦いである。

 ニュースの簡便な閲覧や検索、情報を共有できるWebサイトの進化で、大学生の「新聞離れ」メディア離れは一段と加速するであろう。変化する時代の事象を正確で信頼できる情報としてフィールドの中からすくい取り、いかに知らせるかはジャーナリストの役割である。だが本物のジャーナリストを育てるには時間と経験、費用もかかる。
ジャーナリストを育てる環境も、新聞社の縮小や経営難で変化することが考えられる。
社会状況を知らせ、時に警鐘も含めて伝えるジャーナリストは新聞社やマスメディアの縮小とともに衰退してしまうのか・・・。そのことに気付いた時はすでに手遅れかもしれない。そしてそれは日本の近未来かもしれない。
この書はジャーナリズムの現在地を知り、メディアの置かれた状況を知る手掛かりとなる一冊である。