講師 武石健哉
小・中学生時代、プロレスラーに憧れた。特にアントニオ猪木である。私は猪木が書いた本から、人生熱く生きなきゃだめだとメッセージを勝手に受け取った。さらにはプロレスラーのごとく体は鍛えるべきとウエイトトレーニングに励んだ。ウエイトトレーニングが功を奏したのか、ラグビー高校日本代表に選ばれた。ラグビーとの本格的な付き合いの始まりだった。猪木の本を読んでいなければ、違った人生を歩んでいたかも(笑)しれない。
小学3年生から30歳までラグビープレーヤーとして過ごした時間は、楽しいこと、思い悩んだこと様々あった。選手時代の本に関することで思い出深いのは、Kラグビー部のO選手から7連覇の栄光が書かれた本を、O選手の自宅で直接もらったことである。この本は、雲の上の存在であったKラグビー部のO選手と共に私に大きなインパクトを与え、私が大学卒業後もラグビーを続ける決意のきっかけとなった。
その後Tラグビー部に所属し、7年間プレーしたときにも本の思い出はある。私の試合への出場機会は、同ポジションの日本代表選手が不在の時やけがの際突然訪れた。プレッシャーから逃げ出したくなる(笑)ことも多々あったが、様々なスポーツ選手の手記や体験談が書かれている本を読み、自分を奮い立たせた。本の中の選手の人生に自分を重ね、勇気をもらい弱気の虫に打ち勝っていった。本は私の選手生活においてグランドでのトレーニングでは味わえない、静かな落ち着いた時間を与えてくれた。この動と静のバランスは、必要不可欠であったように感じている。
現在は選手時代より本を読む時間が増えた、というより、勉強不足の私は強制的に増やしている。その中でも「心を鍛える言葉」という本は手元に置き、読み返すことが多い。選手時代のことを再確認したいとき、指導者として考えを整理したいとき手に取っている。心の力は継続的にトレーニングすることで伸びていくことが書かれている。選手時代、がむしゃらに強くなりたいとグランドでのトレーニング、ウエイトトレーニングしていたが、それだけでは足りなかったことが良くわかる。「心は苦しいことに耐えて頑張っていれば強くなるわけではなく、トレーニングをすることで鍛えられる。言葉は心に多大な影響を及ぼし、言葉によって不安や緊張を感じることもあれば、自信や意欲に満ち溢れることもある」とある。私自身、猪木の言葉、数々のスポーツ選手の言葉に力をもらい、グランドでの激しいパフォーマンスに耐えることが出来たと思われる。
指導者として必要なことも多く書かれている。四摂法「布施」相手にものをあげること、「愛語」やさしい言葉を使う、「利行」その人の仕事を助けてあげて、その人に利益を与える、「同事」その人と同じような身分や境遇になること、という4つの心構えのこと。「自未得度先度他」という「自分が先に渡るのではなく、まず他人を渡そう」という意味の言葉。指導現場で興奮のあまり忘れてしまわないようにしたい。また、座禅から監督哲学の多くを学んだフィル・ジャクソンのことも書かれており、彼は何年も瞑想の訓練をしてきたお蔭で、静かな瞬間を見つけることを会得したとある。心の中の調和をとることが指導者にとっても大事であることが読み取れる。これらのことは、私自身まだまだ出来ていないが、心に置いておきたい。
こう考えると本は私に、今も昔も充実した時間を与えてくれているようである。選手時代から続けてきた闘魂を燃やすことと、読書をするという、動と静はこれからも継続していきたい。
皆さんにも、本から言葉の力をもらい、充実した大学生活を送ってもらいたい。壁に行く手を阻まれたときは、闘魂をめらめらとさせながらも、力を抜いて本でも読んでみてはいかがでしょうか。その後のパフォーマンスにつながるかもしれません。