2021年9月21日火曜日

【TORCH Vol.131】 大量調理施設衛生管理マニュアルの理解を深めるために

 講師 真木瑛


 給食とは、「特定多数の人に継続的に食事を提供すること」と定義されており、小中学校や病院、学生食堂などで提供されている食事が該当します。この給食は、喫食する対象者の1食または1日に必要なエネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を満たすだけでなく、対象者の嗜好に適した食事を提供すること、季節感や行事食、予算などを考えながら衛生管理に気を付け安心・安全な食事を提供する必要があります。

 栄養士養成課程では、衛生管理について給食分野や食品衛生学分野の授業で学修します。この2つの分野で学修した内容を給食現場(学生のうちは、給食分野の実習や校外実習が該当)で実践できるかが重要となります。実際に、給食現場の栄養士・管理栄養士に求められる能力の1つとして「安全衛生マネジメントができる人材」が挙げられています。

 給食現場での衛生管理のベースとなるのが「大量調理施設衛生管理マニュアル」です。ここに記載されている内容を基に給食の運営を行うため、このマニュアルを熟知することが重要です。このマニュアルの理解を助けるために今回紹介する「改定 管理栄養士のための 大量調理施設の衛生管理(梶尾一監修、株式会社幸書房)」を参考にしていただきたい。(図書館に蔵書されています。)

 例えば、大量調理施設衛生管理マニュアルでは加熱調理をした場合、「中心部温度計を用いるなどにより、中心部が75℃で1分間以上(二枚貝等ノロウイルス汚染のおそれのある食品の場合は85~90℃で90秒間以上)又はこれと同等以上まで加熱されていることを確認する」とされています。基本的には中心温度75℃以上1分間以上で衛生管理をしてもらえば良いのですが、「これと同等以上」とは何でしょうか?筆者が調べた限り、給食分野や食品衛生学分野の教科書でこの件に関して記されているものは本書だけでした。本書では、「Z値を10℃とした場合には、65℃10分、85℃6秒、95℃0.6秒などで達成できる」と記載されています。


 Z値:D値を1桁変化させるのに必要な加熱温度の変化、微生物の場合通常10℃として計算している

 D値:処理の温度で供試菌(食品成分)の90%を死滅(分解)させるのに要する時間


他にも、大量調理施設衛生管理マニュアルの「器具等の洗浄・殺菌マニュアル」の部分で「作業開始前に70%アルコール噴霧又はこれと同等の効果を有する方法で殺菌を行う」と記載されていますが、「70%アルコール」の根拠が記載されていません。(ちなみにこれと同等の効果を有する方法とは、塩素系消毒剤(次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸水、次亜塩素酸水等)やエタノール系消毒剤には、ノロウイルスに対する不活化効果を期待できるものことです。)本書では、「殺菌効果は70~80%濃度で最も強い」ことが記載されています。このことが「70%アルコール」の根拠になると考えられます。また、「第4章調理環境の衛生と管理」では、大量調理施設衛生管理マニュアルの器具等の洗浄・殺菌マニュアルに沿って、写真付きで洗浄・殺菌方法が記載されています。

このような情報を基に、大量調理施設衛生管理マニュアルについての理解を深めていただき、安心・安全な給食を提供できる能力を身につけるために本書を活用いただければ幸いです。


※小中学校で給食の運営を行う際は、学校給食法などのチェックも忘れずに!

2021年9月6日月曜日

【TORCH Vol.130】 「コロナ禍」と「太平洋戦争」当時が似ている!?という話

 准教授 岩渕孝二

 東京オリンピック、パラリンピックの開催を控えた令和3年4月以降、話題になったことのひとつに
   コロナ禍の現状が80年近く前の太平洋戦争に突き進んだ当時と変わらないのでは
というものがありました。
 この話題には多少の幅はあるわけですが、いずれにしても
   ここまで来たらやるしかないと突き進む現状
とか、
   分かっているのにその場しのぎの対策しか講じない
といったもので、さらには、
   意思決定が、非常時になると全く機能しない日本社会の特質を露呈
というものもありました。
 太平洋戦争の話題になると、よく「なぜ、負けるとわかっている戦争を止められなかったのか」といったことが、取り上げられます。
運動競技を行う上での戦術や試合の流れといったことも同様かもしれませんが、警察官として、特に事件捜査に関わってきた私なりに、「進むのか、止まるのか、戻るのか」といったことは、常に考えなければならない課題でした。
 皆さんに分かり易い事例で説明すると、特殊詐欺の犯人グループのアジトが判明したとします。 苦労して判明したアジトですが、犯人は捕まらないように短期間でアジトを変えるのが常ですし、長期間の張り込みや尾行捜査等を行っても犯人グループの個人個人がどこの誰なのかを特定するには至らない、しかもアジトの中の行動が見えないため、10人もいる犯人グループの、誰がどの事件に関与しているのか特定できないということがよくあります。
この間にも犯人グループの犯行が続き、被害の拡大も懸念されるため、いつ、どのタイミングで、どのような体制でアジトを急襲するのかといったことは、アジトが判明した時点で検討しなければなりません。
一方で予定どおりに行かないのが世の常で、それこそ、犯人グループの動きがおかしい、捜査員が遠隔地で病気になり体制が整わない、しかし急襲・突入のタイミングは今しかない、さあどうするということは、日常茶飯事のことでした。
話が若干道をそれた感もあるので本題に戻します。太平洋戦争に関する著作物は、数多ありますが、
  「なぜ必敗の戦争を始めたのか(陸軍エリート将校反省会議)」
   半藤利一編・解説(文春新書)
を読んでみてはいかがでしょうか。
 戦争に関する本ということで毛嫌いされるかもしれませんが、この本を読むと、確かに戦争の中枢にいた将校のほぼ全員が戦争突入を望まず、戦争をしないための努力を惜しまなかったのに戦争に突入することになったこと、終戦後、陸軍や海軍を問わず、中枢にいた将校があらゆる角度から反省を繰り返しているのに、あまり一般の目に触れることなく、国民として反省してみること、考えてみるべきことが伝わっていないことが分かります。
また読み進んでいくと、作戦等の立案に携わった方々は、何か自分のことのようで自分のことではない感情にとらわれているような気がして、益々なぜ戦争を止められなかったのか分からなくなってきます。
様々な政策や経済理論、スポーツ理論等に関しても、高度に確立されたものがあり、そのとおりにやれば(できれば)うまくいくはずなのにそのとおりに行かないのは、感情を持つ人間による思惑のなせる業なのでしょうか。
情報量が圧倒的に少ない太平洋戦争当時はいざ知らず、これだけ情報があふれ、誰でも様々な情報を目にすることが可能となった現在において、誰もが「このままいけば、感染は拡大するだろう。」と感じているにもかかわらず、まさに感染拡大の一途を辿っていることを考えると、それは果たして、指導者側だけの責任と言い切れるのだろうか。
一見すると自分には関係ないと思えるようなことでも、他人事とせずに自分のこととしてよく考えてみることが必要ではないか、紹介した本は、そんなことを考えさせる一冊でした。

2021年2月9日火曜日

【TORCH Vol.129】 不合理だらけの日本スポーツ界

 講師 溝口絵里加

近年の日本スポーツ界は、日大アメフト部の悪質タックル問題、体操やレスリング界のパワハラ問題、日本ボクシング連盟会長の不正問題等々、不祥事がたくさんありました。ただ、これらの問題は近年、同時に「発生」したのではなく、「発覚」した問題だと思います。ずっと以前から行われてきた日本スポーツ界の悪しき伝統、風習が明るみになり、起きるべくして起きた事態と言えます。

そこで私は、スポーツに携わる者として、少しでも日本のスポーツ界を良くするためのヒントを求めて、今回ご紹介する本を手に取りました。

著者はアメリカ・スタンフォード大学のアメフト部でオフェンシブ・アシスタントを務められている河田 剛さんという方です。本書では、指導現場を知る立場から、日米のスポーツ事情や、アメリカのスポーツにあって日本のスポーツにないものや、日米のスポーツビジネスのシステムの違いを明らかにし、日本スポーツ界の問題点を挙げると共に、未来の発展に向けた提案をしています。

本書の中で、私が特に驚いたこと、考えさせられた内容を挙げてみました。

1.          大学スポーツの経済規模の大きさ、指導者の待遇

・キャンパス内に11万人を収容できるスタジアムがある

・学生アスリートを指導するコーチの年俸が10億円を超える

・大学は、スポーツによって年間100億円以上の収益を上げている

 

2.          セカンドキャリア支援の充実ぶり

・所属するプロチームが選手の大学卒業にかかる費用を負担する

・博士号取得にインセンティブを出す

 

3.          マルチスポーツに関する規定

・オンシーズンとオフシーズンを明確に定め、オフシーズンの練習を原則的に禁止する

・練習、活動時間の制限を行う

 

この他にも、多くの観客を虜にする大学生アスリートたちが、「ふつうに勉強している」ことにも大変驚きました。ある一定の成績を取らなければ、いくら“強くてすごい選手”であろうとスポーツの練習や試合に参加することが許されない。つまり、勉強せざるをえないシステムが存在することに、私は衝撃を受けました。

さて、日本スポーツ界のあらゆる問題点は、経済性が向上すれば解決する部分が多くあるのではないかと思うことがあります。スポーツをビジネスとして捉えるのが強く根付いている海外では、多くのスポーツがビジネスとして発展し、得られた利益をもとに選手や競技団体の強化が行われています。しかし、日本はスポーツを「教育」の一環として捉え、スポーツをビジネスとして捉える風潮がまだまだ根付いていない気がします。もっとお金が入り、回るようにするには何を改善し、どう取り組むべきなのか?それを考える上で参考にすべき事案がこの本にはたくさん挙げられています。

日本のスポーツ界、特に学生スポーツ界が大きく変わるための手本として、アメリカのシステムは非常に参考になると思います。ただ、必ずしもアメリカのシステムがすべて良いというわけではなく、その点は著者も本文中で何度も繰り返し言っていますが、日本のスポーツ界の現状と比べるとはるかに優れているのは間違いないです。

ぜひとも、スポーツに関わるすべてのアスリートや指導者、スタッフに読んでいただきたい一冊です。