2013年12月5日木曜日

【TORCH Vol.040】人生あれこれ考えているうちに心が楽になる本

准教授 高崎義輝

 皆さんは、「ブッタとシッタカブッタ」(メディアファクトリー)という本をご存じですか。仏教の教えを説く本ではありません。「人の悩みをどう解決したらいいか」をテーマにした漫画シリーズで、200万部突破のロングセラーです。お釈迦様に似た豚のブッタというキャラクターと人生あれこれ考えるシッタカブッタというキャラクターが登場し、「あれこれ考えているうちに心が楽になっていく」というような本です。

 4コマ漫画ですので、楽に、時間がないときでも楽しめます。現在のところ、8巻発行されているのですが、私はそのすべてを購入しました。一言で言うと、私が“はまった”漫画本です。漫画本と馬鹿にしてはいけません。ここでは、その“はまった”理由を紹介したいと思います。

 私がこの本と出会ったのは、1995年精神科の病院に勤務していた時です。ある精神科医がうつ病の患者さんに、「ブッタとシッタカブッタ」を読むことをすすめていたところに、同席していたことがきっかけでした。驚くべきことに、数日後「ブッタとシッタカブッタ」を読んだ患者さんが、他者との人間関係が以前と比べ、穏やかに、前向きな行動ができるようになったのです。

 今思えば、漫画本による認知行動療法であったのだ(キャラクターの行動とその結果を自分の行動に重ね合わせ、自分に足りないことを自覚し、行動の変容をはかること)と理解しています。

 こうした経験から、心が疲れている学生が相談に来ると、研究室にあるこの「ブッタとシッタカブッタ」の本を貸し出しするというのが、定番の対応になりました。この本は、「そのまんまでいいよ」と心が疲れている学生にやさしく語りかけてくれます。学生の評判も良好です。心が楽になることを私自身も体験したおすすめの一冊です。

 また最近では、この「ブッタとシッタカブッタ」をコミュニケーションの学習教材としても活用しています。「ブッタとシッタカブッタ」には、多くの恋愛シーンがあり、恋愛を成功させるためには、コミュニケーション能力が必要であることが理解できます。コミュニケーションを学問として理解しても、できる技術・使える技術になるとは限りません。 

 恋愛(それも漫画)という学生が最も興味を持ちやすいテーマを題材に、コミュニケーションをできる技術とするための一つの教材として「ブッタとシッタカブッタ」は活用できると感じています。

 最後に、この本を執筆された小泉 吉宏(こいずみ よしひろ)を調べていましたら、「一秒の言葉」に辿り着きました。SEIKOのCMで有名になった詩で、小泉さんはその作者でした。

 今頃気づいたのですが、大学2年生(1985年)頃よく見たCMで、今でも記憶している詩でした。子供の道徳の教材として使われていたことを思い出しました。感動的で、力が湧いてくる詩です。

 そうして考えると、随分昔から小泉さんにはお世話になっていました。
 心が疲れてきましたら、是非、皆さんも「ブッタとシッタカブッタ」のお世話になってみてはいかがでしょうか?

<一秒の言葉>
「はじめまして」 この一秒ほどの短い言葉に 一生のときめきを感じることがある
「ありがとう」 この一秒ほどの言葉に 人のやさしさを知ることがある
「がんばって」 この一秒ほどの言葉で 勇気がよみがえってくることがある
「おめでとう」 この一秒ほどの言葉で 幸せにあふれることがある
「ごめんなさい」 この一秒ほどの短い言葉に 人の弱さをみることがある
「さようなら」 この一秒ほどの短い言葉が 一生の別れになるときがある
 一秒に喜び、一秒に泣く。一生懸命、一秒。

【TORCH Vol.039】「ベトナムの ダーちゃん」早乙女勝元 文 ・ 遠藤てるよ 画

准教授 関矢貴秋

 私とベトナムとの出会いは、小学校4年生の時でした。題目に記した「ベトナムのダーちゃん」を通してです。小学校の課題図書として購入した記憶があります。この本には13歳の少女による、当時ベトナムで起こっていた戦争につての実体験を基にした告白が綴られてあります。当時の私にとっては少し、いやかなり難しい内容と文章であり、その行間からは想像もつかないこと、言葉に出来ないくらい大変なことが起こっていることが感じとれました。今でも涙が出たことを覚えています。ですから私には数十年後の昨年まで、その表紙を開いた記録はありませんでした。

 しかし、そんな私が再びこの本を実家の書庫から引っ張り出し、じっくりともう一度読んでみようと思ったのです。それは昨年ベトナムにてJICA(国際協力機構)との共同事業を担うこととなったからです。過去にあった戦争の影響によって身体に障害があり、不自由な生活を余儀なくされている大人や子どもたちに、もう一度社会復帰を目指してリハビリに取り組んでもらう試みです。BOPを対象とした事業の一つで、身体障害者の社会復帰を医学・福祉・教育などの側面から支援するプロジェクトであります。私はベトナムを訪れる前に、再びこの本を読み返すことで、自分が活動を共にする人たちの歴史を少しでも知ることが出来るのではないかと思い静かに表紙を開きました。

 ベトナムとの繋がりはその後、新たな展開を迎えました。去る11月18日、仙台大学にベトナム社会主義共和国・ホーチミン体育大学の2名の先生が来校されました。我が大学と国際交流を進めるための協定締結・調印にこられたのであります。ホーチミン体育大学は体育科学を専門とすることから、本学との間で共通の学問を通して交流の伸展が期待されます。

 また、仙台大学はもう一つ、ベトナムの大学と協定を交わしています。首都ハノイにあるハノイ大学です。ハノイ大学は外国語大学として発展してきた歴史がありますが、今後は健康科学関連の学部開設の検討もされているとのことです。健康を科学的に研究し健康増進の方法を普及させることは、これからのベトナムにおいては必須の要件であると思います。その点においても、我が大学との連携は未知なる可能性を秘めていると思います。

 少し余談ですが、そんな未知なる可能性を秘めたベトナムについて記します。ベトナムは東南アジアのインドシナ半島東部に位置します。中国・ラオス・カンボジアと隣接し、東は南シナ海に面しています。首都はハノイです。ベトナムは南北に1650㎞と長い国土であり、南にあるホーチミン市は北にある首都ハノイから約1100㎞離れています。では日本からはどのくらいでしょうか。直線距離で約3600㎞、成田国際空港からホーチミン市まで約6時間、ハノイまでは成田から約5時間半です。国土全体としては高温多雨で、熱帯モンスーン気候に属しています。しかし南北に細長い国土のため北の首都ハノイの季節には四季があります。まるでベトナムの観光案内でも始めるかのような件になりましたので本題に戻ります。

 このように仙台大学と東南アジアの南国ベトナムの二つの大学が協定書を結び、これからの21世紀を見据え、体育・健康科学を基本として交流を進めようとしています。もちろん学生の皆さんもその一員として活躍が期待されているのです。ですから少しでもベトナムに興味関心を持った方はその南の国に目を向けてほしいと思います。
 安全で平和といわれている日本から、世界各国に連携の環を広げている仙台大学です。ただ協定を結ぶだけではなく、是非皆さんも世界に向けて自らの知識・技術を発信すると同時に、その国の歴史・風土・社会情勢、etcを多くの関連図書から学び実りのある国際交流にして頂きたいと思います。

追伸 「ベトナムのダーちゃん」には続編として「ダーちゃんは、いま」があります。いずれも仙台市立図書館にて閲覧できます。

【TORCH Vol.038】闘魂と読書

講師 武石健哉

 小・中学生時代、プロレスラーに憧れた。特にアントニオ猪木である。私は猪木が書いた本から、人生熱く生きなきゃだめだとメッセージを勝手に受け取った。さらにはプロレスラーのごとく体は鍛えるべきとウエイトトレーニングに励んだ。ウエイトトレーニングが功を奏したのか、ラグビー高校日本代表に選ばれた。ラグビーとの本格的な付き合いの始まりだった。猪木の本を読んでいなければ、違った人生を歩んでいたかも(笑)しれない。

 小学3年生から30歳までラグビープレーヤーとして過ごした時間は、楽しいこと、思い悩んだこと様々あった。選手時代の本に関することで思い出深いのは、Kラグビー部のO選手から7連覇の栄光が書かれた本を、O選手の自宅で直接もらったことである。この本は、雲の上の存在であったKラグビー部のO選手と共に私に大きなインパクトを与え、私が大学卒業後もラグビーを続ける決意のきっかけとなった。

 その後Tラグビー部に所属し、7年間プレーしたときにも本の思い出はある。私の試合への出場機会は、同ポジションの日本代表選手が不在の時やけがの際突然訪れた。プレッシャーから逃げ出したくなる(笑)ことも多々あったが、様々なスポーツ選手の手記や体験談が書かれている本を読み、自分を奮い立たせた。本の中の選手の人生に自分を重ね、勇気をもらい弱気の虫に打ち勝っていった。本は私の選手生活においてグランドでのトレーニングでは味わえない、静かな落ち着いた時間を与えてくれた。この動と静のバランスは、必要不可欠であったように感じている。

 現在は選手時代より本を読む時間が増えた、というより、勉強不足の私は強制的に増やしている。その中でも「心を鍛える言葉」という本は手元に置き、読み返すことが多い。選手時代のことを再確認したいとき、指導者として考えを整理したいとき手に取っている。心の力は継続的にトレーニングすることで伸びていくことが書かれている。選手時代、がむしゃらに強くなりたいとグランドでのトレーニング、ウエイトトレーニングしていたが、それだけでは足りなかったことが良くわかる。「心は苦しいことに耐えて頑張っていれば強くなるわけではなく、トレーニングをすることで鍛えられる。言葉は心に多大な影響を及ぼし、言葉によって不安や緊張を感じることもあれば、自信や意欲に満ち溢れることもある」とある。私自身、猪木の言葉、数々のスポーツ選手の言葉に力をもらい、グランドでの激しいパフォーマンスに耐えることが出来たと思われる。

 指導者として必要なことも多く書かれている。四摂法「布施」相手にものをあげること、「愛語」やさしい言葉を使う、「利行」その人の仕事を助けてあげて、その人に利益を与える、「同事」その人と同じような身分や境遇になること、という4つの心構えのこと。「自未得度先度他」という「自分が先に渡るのではなく、まず他人を渡そう」という意味の言葉。指導現場で興奮のあまり忘れてしまわないようにしたい。また、座禅から監督哲学の多くを学んだフィル・ジャクソンのことも書かれており、彼は何年も瞑想の訓練をしてきたお蔭で、静かな瞬間を見つけることを会得したとある。心の中の調和をとることが指導者にとっても大事であることが読み取れる。これらのことは、私自身まだまだ出来ていないが、心に置いておきたい。

 こう考えると本は私に、今も昔も充実した時間を与えてくれているようである。選手時代から続けてきた闘魂を燃やすことと、読書をするという、動と静はこれからも継続していきたい。

 皆さんにも、本から言葉の力をもらい、充実した大学生活を送ってもらいたい。壁に行く手を阻まれたときは、闘魂をめらめらとさせながらも、力を抜いて本でも読んでみてはいかがでしょうか。その後のパフォーマンスにつながるかもしれません。

【TORCH Vol.037】「ウチダ先生、“邪悪なもの”に出会ってしまったら、どうしたらいいんですか!?」-内田樹から宇宙人まで-

教授 小松正子

1:内田樹
 ウチダ先生というのは、『日本辺境論』(新書大賞)でも著名な思想家・武道家、内田樹(たつる)のことだ。先日、NHKEテレ(達人達(たち))で武田鉄矢が内田樹について、次のように端的に表現していた。「もう、『この人は、ただ者じゃないぞ』って思いました。近頃、私がテレビやラジオでしゃべっていることのほとんどは内田師範のモノマネですね。」
 さて、表題の質問は、内田樹著「邪悪なものの鎮(しず)め方」(バジリコ)の本の帯に書いてあったものだ。本の紹介には、「“邪悪なもの”と遭遇したとき、人間はどうふるまうべきか?『どうしていいかわからないけれど、何かしないとたいへんなことになる』極限的な状況で、適切に対処できる知見とはどのようなものか?この喫緊の課題に、ウチダ先生がきっぱりお答えします」とある。きっと、表題に釣られて(?)このコラムを読んでいるあなたは、邪悪なものに出会って途方にくれた経験のある(あるいは現在困っている)人だ。
 内田は、「“邪悪なもの”を構成する条件の一つは、私たちの常識的な理非の判断や、生活者としての倫理が無効になるということ。『どうしていいかわからない』ということです。渡り合うか、折り合うか、戦うか、スルーするか・・・・」として、「私自身のみつけた答えは、“礼儀正しさ”(ディセンシ―)と、“身体感度の高さ”と、“オープンマインド”ということでした。」と述べている。私は、“身体感度の高さ”は、“五感を研(と)ぎ澄まして”と言い換えて、以来、何か困ったことがあると、この3つを思い出している。
 ちなみに内田は、ついこのあいだまで大学教授(フランス文学)だったが、今は、自宅兼道場で、執筆活動と師範業に専念しているようだ。蛇足になるが、内田は、何か世の中で問題が起きて解釈に困ったときに、私が(教員ではなく)個人として、意見を聞きたい人の一人だ(例えば、今、話題の特定秘密保護法案についてなど)。

ところで、邪悪とは限らないのだが、宇宙人に関して次に触れておく。

2:UFOによる領空侵犯・挑発に対し迎撃すべきか、米大統領は自ら電話でアインシュタインに助言を求めた。

 これは、UFO史上“ワシントン事件”と呼ばれるもので、1952年7月に起こった(以下、「未確認飛行物体UFO大全.並木伸一郎著 Gakken」よりかいつまんで紹介する)。ワシントン上空に突如怪光体群が現れて、ホワイトハウス上空領域まで平気で侵入を繰り返した。それらは空軍の計算によると、時速200キロ前後のヘリコプターなみで動いているかと思えば、突如スピードを増し、時速1万1700キロという途方もないスピードで飛び去ったり、急に方向転換したりした。そこで、時のトルーマン大統領が、アインシュタインに電話をかけ助言を求めた。アインシュタインの答えは穏健なものだった。「未知の知性体の科学技術力が不明である以上、むやみに発砲したり戦闘することは、絶対に避けるべきだ」
 上記の真偽は、私は保証はできない。しかし、宇宙の歴史が約138億年で、地球の歴史は約46億年。とすると、ちょっと先輩の星があり、人間よりはるかに進化した知的生命体がいても不思議ではない。中田力(つとむ)氏(新潟大学脳研究所統合脳機能研究センター長)は「脳のなかの水分子―意識が創られるとき(紀伊国屋書店)」のなかで、「生体を作り上げている物質は有機化合物・・・その基本構造を作り上げるのが炭素(原子番号6)である。・・・炭素は、きれいな、バランスのとれた立方体を作り出すことができるのである。・・・ところで自然界の元素のなかで、完全な正四面体の軌道をつくれる元素は炭素だけではない。原子番号14のシリコン(珪素)である。地球での生命を作り上げる主役は炭素に譲ったシリコンだが、・・・宇宙のどこかにシリコンを基本とする生命体が、本当に、いるかもしれない」と述べている。
 「チーズはどこへ消えた?(スペンサー・ジョンソン著.扶桑社)」という、ネズミが大切にしていたチーズの話の小本は知っている人もいると思うが、私も、チーズが消えてから(何か事が起こってから)あわてたくないので、いろいろな可能性を考えておきたい。フランスなどには、UFO情報を検証する国家機関もある。ちなみに内田樹も“邪悪なものの鎮め方”のなかで、「実験と仮説に対する開放的な構えのことを“科学的”というのだと私は信じている」と書いている。

特に学生は、将来宇宙人と遭遇する可能性が、若い分だけ高い(!?)。万が一のそんなとき、“邪悪なものの鎮め方”も思い出して、うまく立ち振る舞ってもらえたら幸甚だ。 

(平成25年11月26日)

【TORCH Vol.036】20代を後悔しないために

助教 髙橋陽介

 今回のブログを担当する、体育学科スポーツトレーナーコース助教の髙橋陽介です。仙台大学の教員としては、今年度で2年目となりますが、その前までは大学GTセンターの新助手として5年間勤めていました。その当時は、現在も教員と兼任しておりますが、明成高校男子バスケットボール部のアスレティックトレーナーとして、主に仙台市青葉区川平にある「明仙バスケラボ」に勤務していました。教員となった現在も、大学業務と高校バスケットボール部アスレティックトレーナーとして日々ばたばたと職務をこなしています。

 今回このブログの執筆依頼を受け、大学生の皆に何を伝えることができるのか色々と考えました。なぜなら、私は自分が大学生の時に人にアドバイスできるほど多くの本を読んではいなかったからです。高校生まではプロサッカー選手を目指し、部活動に明け暮れる毎日。そして、大学はアメリカへ留学をしたので、ゆっくりと文庫本や雑誌、漫画本などを読む時間がありませんでした。特にアメリカの大学に入学してからは、授業で使用する教科書と英英辞典を常に持ち歩きながら、図書館が閉まる午前0時まで勉強していたことを今でも鮮明に覚えています。これは、自慢と言うよりは、自分の要領の悪さや能力の無さを告白しています。私がアメリカで知り合った日本人留学生の中には、毎日そんなに遅くまで勉強することなく、しっかり自分の時間を確保して趣味を楽しむ人は何人もいました。私もそうすることができていれば、もっとアメリカでの留学生活を楽しむことができたかもしれません。

 私が教科書以外の本を好きで読むようになったのは、留学を終え日本へ帰国して仕事に就いてからです。すでに20代半ばを迎えていました。最初に興味を持ち読み始めた本は、「自己啓発」の種類の本でした。そして今回私が紹介したい本は、いくつか読んだ自己啓発本の1つで、大塚寿氏著書の「30代を後悔しない50のリスト」という本です。アメリカ留学中にアスレティックトレーナーの資格を取得するという夢を実現し、日本でその資格を活かせる職に就けた後、私はしばらく大きな夢や目標もないまま日々生活をしていた時期がありました。1つの大きな夢を叶え、次のステップが見つけ出せていない時でした。

 ある時、目的も無くふと書店に立ち寄ると、この本に目が止まりました。これまで教科書や参考書しか読む習慣のなかった私ですが、その時はなぜかこの本を自然と手に取っていました。今考えると、きっと30代になる前に自分を変えたいという気持ちがあったのだと思います。この本はとても読みやすい構成になっています。著者が、30代の10年間を失敗したと考えている人たちにリサーチをおこない、その失敗談をもとに、30代ですべきことを50のリストとしてまとめています。

 この本の中から、印象に残っているいくつかのリストを紹介したいと思います。1つ目は、「あらゆることにチャレンジする。新しい価値は真面目からは生まれない。」という文言です。これは、真面目である必要は無いと言っているのではありません。ここで言っていることは、言われたことをただコツコツとやっているだけでは、“新たな価値”をもたらすことができないと言っているのです。こういった「コツコツ型」は、自分の仕事に線引きをし、自分の仕事の効率だけを求めること多いのだそうです。しかし、30代では、無駄なことかもしれないと思っても、多くのことにチャレンジをし、自分の可能性や人脈を広げていくことが大切だといっています。

 2つ目は、「利己心は長期的にうまくいかない。利他の心が上昇気流をつくる」という文言を紹介します。利己的な人はうまくいっている時は表に出ないが、引き潮を迎えた時に利害で集まっていた人間関係がさーっと引き、誰もいなくなってしまうという教訓をここで説明しています。利他的にものを考える人は、長期的に巡り巡って自分に利が返ってくるということです。

 以上に2つの例をあげましたが、この本は50のリストですから、他に48個の文言があります。すべてが自分にとってためになる話ではないかもしれません。しかし、それで良いと思います。自分が賛同することや納得いくことを探し、自分なりに噛み砕いて吸収していくことが重要だと思います。私は、20代半ばの時にこの本と出会いました。この本が出版された後に、大塚寿氏は「20代を後悔しない50のリスト」という本も出版していると思います。私はその本を読んだことはありません。しかし、大学生の皆はまだ10代後半から20代前半。在学中に機会があれば読んでみてはどうでしょうか?何か新しい発見があるかもしれませんね。

 私は、教員という立場で教壇に立ち、このブログも執筆していますが、他の先生方と比べるとまだまだ未熟な人間です。時に、大学生の皆に授業をすることは自分にとってまだ早いのではないかと思うこともあります。ですから、私も現状に満足せず、これから自分を高めていくために日々考え、努力を続けていこうと思います。

【TORCH Vol.035】「センター試験」に保健科目があるフィンランド

教授 小浜 明

はじめに
 フィンランドでは、大学入学資格試験(Matriculation Examination:日本のセンター試験のようなもの)があり、その試験科目の一つに保健科の試験がある。しかも、保健科は、一般科目12科目中、受験生が最も多い(受験生に人気の)科目なのである。ヨーロッパの国々では、イギリスのGCSE(General Certificate of Secondary Education)、ドイツのアビトゥーア、フランスのバカロレアのような、大学入学資格試験が実施されている。しかし、保健科を全受験生が受験可能な入試科目として設定している国は、フィンランド以外にはない。また、2013年4月に実施された「フィンランド基礎学校学習状況調査」では、9年生(日本の中学3年生)を対象に、外国語科と数学科の試験とともに、保健科の試験が実施されている。ところが、このような実態については、日本の保健科教育研究者の間でも、ほとんど知られていない。

大学入学資格試験の概要
 フィンランドの大学入学資格試験は、1852年に開始されたヘルシンキ大学の入学試験が変化してきたものである。現在では、National Core Curriculumに示された高等学校で履修すべき科目の到達度を測定する卒業試験も兼ねている。試験は春と秋の2回。各高等学校の体育館(写真)や教室などを会場に実施され、連続する3回の実施期間内に必要な科目に合格すればよい。合格に必要な科目は4科目で、母国語1科目が必修。他に第二公用語、外国語、数学、一般科目の4科目の中から3科目を選択する。一般科目には、保健、心理、社会、物理、歴史、化学、生物、地理、宗教、哲学、倫理などの12科目がある。一般科目を選択した場合、さらに科目を選択して、その中の設問の6問か8問に解答する。試験は1日1科目。試験時間は朝9時の開始から15時の終了までの6時間である。いつ休息を取るか、いつ昼食を取るかは、各個人の判断に委ねられている。

写真 大学入学資格試験の様子(ヘルシンキ新聞より)

保健科目は受験生に大人気
 保健科の一般科目への導入が決定されたのは2006年。保健科の試験は2007年から実施されており、開始時から保健科の受験生は他教科に比べて極めて多く、しかもその数は年々増加している(2013年秋の一般科目の受験者率上位5教科は、保健29.3%、生物14.7%、歴史12.0%、心理10.3%、社会10.2%)。なお、フィンランドでは、大学入学資格試験に合格して直ぐに大学に入学する人は多くない。一度社会に出て働いてから、機会を見て大学に入学するのが一般的である。フィンランドでは、大学への入学は、大学入学資格試験に合格していればいつでも可能だからである。ただし、学部や学科、専攻によっては独自の試験を課している。特に志願者の多い医学部や教員養成課程などでは、独自に試験を課している場合がほとんどである。

保健科の試験問題
 保健科の試験は全部で10問が出題され、全てが論述式であり、受験生はその中から6問に解答する。10問の中には他の問題よりも挑戦的な+の印がついた「ジョーカー・クエスチョン」が2題出題される。一般問題の得点は0~6までのグレード、挑戦的な問題の得点は0~9のグレードに分けられ、全体の得点に加算される。各設問下にa)、b)、c)等のいくつかの下部設問がある場合は、それぞれの設問に正解して最大の得点が与えられる。以下は、2013年春に実施された保健科の試験問題の一部である。
1)どのようなトレーニングによって筋力を増加させることができるか?また、そのトレーニングが効果的である根拠についても述べなさい。
2)次の状況下の人は、どのような症状があらわれるか?また、それぞれの状況において、どのような応急処置がなされるべきかについても示しなさい。
 a)高校の授業中に生徒に起こったてんかんの発作
 b)手首から大量の出血がある14歳の少年の場合:アイスホッケーのジュニア戦においてスケートの刃により怪我が生じたもの
3)+安楽死について倫理的観点から考察しなさい。

おわりに
 フィンランドの保健科の試験問題では、単に知識を問うものはほとんどない。それよりも、子どもたちが現代社会の中で直面する健康課題に対して、保健の科学的認識(根拠)を基にして論理的な結論が構成できるのか、を問うものがほとんどである。フィンランドの保健科では、知識の獲得は、学習者が知識体系を自ら構成していく過程であると捉えられているからである。ところで、日本でも、2013年度より、小学校・体育及び中学校・保健体育で、「学習指導要領実施状況調査」が始まっている。今回紹介したフィンランドの保健科の試験問題は、この調査項目を作成する際にも大いに参考になるものと考えられる。また、今後、日本の保健科で育てる学力(リテラシー)や能力(コンピテンシー)を考える上でも、大いに役立つ知見と考えられる。

参考文献
 小浜明:フィンランドが育てようとしている保健科の学力-「保健科目」が大学入学資格試験にある国,日本体育学会第64回大会発表資料,2013.8

謝辞
 本研究はJSPS科研費24500829の助成を受けたものです。

【TORCH Vol.034】見えない壁を壊す!

助教 鈴木良太

「肯定力」とあまり耳にしない言葉だが、この言葉は自分自身を肯定する力のことを指しています。肯定力が高ければそれだけ自分を信じる気持が強くなり、目標に向かって積極的に進めるようになるといわれています。とりわけ厳しい勝負の場では、肯定力の高低が勝負を分けるともいわれ、そのためにトップアスリートたちは、肯定力を高めるメンタルトレーニング等を行っています。今回、私がおすすめする書籍は、アテネオリンピック金メダリストで現徳洲会体操クラブ監督でもある米田功氏が執筆した「見えない壁を壊す!」光文社発行の書籍です。

この書籍の魅力は何と言っても現役時代に本人が行っていたメンタルメソッドが書かれていて、よくあるようなメンタルトレーナーが書いているような一般的なものとは一味違った切り口で書かれているところです。また、本人の実体験で書かれているため信憑性があり読んでいて納得してしまいます。これは、体操競技だけではなく他の競技を経験した方でも共感できる内容だと思います。

それではこの本の中身について面白いメソッドを2つほど簡単にご紹介します。

メソッド①
自分の「いい部分」と「ダメな部分」は分けて考える
ほとんどの人が自分を点数化すると80点だったり50点と答えるとありますが、本来は「いい部分100点」「ダメな部分100点」と分けて考え、いい部分とダメな部分を自分が知っておくことによって肯定力に繋がるとあります。

メソッド②
失敗にこそ共通のパターンがある
米田氏は他者からアドバイスをもあう時に必ず成功のためのアドバイスと失敗のパターンを聞くと書いてありました。その中でも、「どんな時に失敗したか」「どうすれば危険か」「どうなっていくときに失敗が出てくるのか」等の失敗のパターンを知っておくことが致命的な失敗を回避することができると書かれています。

実際に競技を続けていて伸び悩んでいる方や指導現場でのコーチングの参考にして欲しい一冊だと思います。