2013年10月1日火曜日

【TORCH Vol.029】粋なプレゼント~『人生の地図(The Life Map)』~


助教 柴田恵里香

 これまでに、何度か本をプレゼントされたことがある。
 誕生日に2回、そして退職時に1回。

 勝手な思い込みかもしれないが、本は他のプレゼントと一味違う。
 贈り主が主張したいこと、贈られる側に向けられたメッセージ、その本から読み取れるものなど、はっきりと用途が分かる「モノ」とは違って、本にはあれこれ推察や想像をさせてくれる楽しみがある。しかも、これは長年に渡って楽しめる場合が多い。

 今回は、そのような楽しみをいまだ提供してくれている1冊にまつわる話をしたい。

 本というよりは写真集と言った方がいいかもしれない。『人生の地図(The Life Map)』という1冊だ。表紙には、ゴーグル付ヘルメットをかぶって顔をピエロのようにペイントした男の子の白黒写真がデカデカと登場している。この本を贈ってくれたのは、私が大学卒業後から5年間勤務していた会社の先輩で、仕事のみならず人生相談などよく面倒をみてくださった方だ。その先輩は、仕事を120%こなしつつも組織に染まりきらず自分の信念をしっかりと持ち続け、一方ではおやつを目にすると目を輝かせるお茶目な部分も持ち合わせ、さらにはプライベートで奥さま・息子さんと仲の良い素敵な家庭を築かいており、結婚するならこのような人!と周囲の女性社員から人気が高かった。私が会社を離れ、大学院という全く別な道を歩もうとしていたときに贈られたのがこの1冊だった。

 「もう僕は身動きが取れないけど、君はここに留まっているような人間じゃない。色々もがいて、また話聞かせてもらえるのを楽しみにしているよ。」

 当時、新たな世界に踏み出すことで希望に満ちあふれていたので、通常は人生に悩み、立ち止まったようなときに読むことが想定されるこの本を上記のような言葉と共にプレゼントされたことに少し違和感を覚えた。この本は、「欲求」「職」「パートナー」「選択」「行動」「ルール」「物語」というパートに分かれており、それぞれ短いフレーズや著名人の言葉がインパクトある写真と共に記されている。正直、その頃は飛び込もうとしている世界に浮かれ気味だったので、本の言葉はそこまで響くことがなかった。そのため、当時の私にとっては、この本が私への応援メッセージというよりは、今後も同じ会社で働き続ける先輩の心境を表しているように感じた。

 しかし、大学院に通い始め進路に迷ったり、現在教員という職に就き戸惑ったりするときに、改めてこの本に目を通すと、その時々で何か引っかかる、心に響く言葉が違うことに気づかされる。昨今デジタル化が進み、情報や資料を流し読みしてしまうことが多い。しかし、本は手元に置いておけば何年経っても簡単に読み返すことができる。ましてや他人からの贈り物だと、思い出と共に何度も楽しむことができる。先輩から本をもらってもう5年以上になるが、改めて粋なプレゼントだったなぁと感じる。

 最近読み返していて、納得させられるフレーズを2つだけ紹介して終わりにしたい。これは、今後社会に出る大学生にとってもシンプルで、トンと背中を押してくれる言葉ではないかと思われる。

 「自分の仕事を嫌ってるようなクソッタレだけにはなりたくない。」
 「必要なのは勇気ではなく、覚悟。決めてしまえば、すべて動き始める。」

 仕事の愚痴をこぼすくらいなら、覚悟して行動し、愚痴を言わなくて済むように自ら環境を変えていけばいい。先輩から本をプレゼントされ、数年後にこの本を読み返したときにふと思ったことだ。デジタル化だ、グローバル化だと世界は複雑になりつつあるが、たまにはこのような写真や短いフレーズが中心のシンプルな本に触れてみるのも悪くない。もちろん、誰かにプレゼントすることも含め。