現代武道学科 教授 猪狩 一彦
私が前職で勤務していた高校の行事で、校内ビブリオバトル大会というものがありました。ご存じの方も多いと思いますが、「ビブリオバトル」には次のような公式ルールがあります。『発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。順番に1人5分間で本を紹介する。それぞれの発表後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2〜3分間行う。全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員が1人1票で行い最多票を集めた本をチャンプ本とする。』というものです。
私も、思わず高校生の推す本に対する熱い思いに惹かれて、その本を手に取り読んでいました。高校や大学生の時期は感受性が豊かで、周囲のあらゆるものから刺激や影響を受けながら自分だけの感性を磨き輝かせる時期です。彼らが感銘する世界観を共有し、その感性を感じることはとても楽しい時間であり、同時に彼らの成長を感じることもありました。
本の中には、普段会話をする際に自分では使わないような言葉や知らなかった言葉に触れ、さまざまな言葉を覚えていくことで語彙力が身につきます。また、物語は起承転結などの構成に沿って話が作られていますので、順序立てて物事を考える力がはぐくまれ、論理的な思考力が身につきます。さらに、本を読んでいるときには具体的な情景を思い浮かべたり、主人公の気持ちを考えたり、頭の中でさまざまなイメージを思い浮かべることによって、想像力や判断力が養われていきます。そして、自身が行動を起こす際にさまざまなシーンを想像しながら行動する術が身につくとともに、対話力やコミュニケーション力も向上します。文科省の学習指導要領にも読書活動のすすめが盛り込まれており、「主体的・対話的で深い学び」の定義にも繋がります。
ところで、このように楽しみの多い読書ですが、最近のマイブームとして、車での通勤時間が増えてことによりオーディオブックを通した聴書(読書とはいえないので)時間が多くなりました。オーディオブックの良さは、目に負担がかからないことと併せて、作業をしながら本の世界に浸れます。今年度の聴書は40冊を超え、楽しい通勤時間を過ごしています。しかし欠点としては、「運転しながら」であり、自分のペースで読めるわけでもないので、知識を得るような本には向いてないので、どちらかというと、気軽に読める小説がおすすめです。そこで、この1年で聴書した本からお気に入りの2冊を紹介します。
① 『俺たちの箱根駅伝』 著者 池井戸 潤 (文藝春秋)
母校が出場しているとか、学生の時に陸上競技をやっていたとかに関係なく、お正月に箱根駅伝に見入ってしまう理由が、この本を読んでわかった気がします。タスキをつなぐ選手それぞれに、箱根駅伝に掛けてきたドラマがあります。予選落ちした大学から選ばれた学生連合チームを主人公に、それを伝える放送局やスタッフなど、本戦のテレビ中継のいろいろな裏側が見える構成となっています。上巻の最後は、運転しながら涙が止まりませんでした(笑)。
② 水滸伝 著者 北方 謙三 (集英社文庫)
大国「宋」に立ち向かう、同士たちそれぞれの熱い思い(文中では「志」と表現されている)、この志に共感し、梁山泊に集まった人々による革命の物語です。各人が仲間の志や生き方に惹かれて、強くなろうともがきます。挑戦しないで後悔するよりは、後悔を残さずに志を遂行したいと思わせる内容です。全19巻の大作です。
この2つの作品に共通する魅力は、ともに小さな存在のものが、失敗を恐れずに大きな壁に果敢に挑戦していく姿にあります。人生の選択肢に迷ったとき、なるべく後悔しなさそうな方を選ぶということを続けていこうと思わせる作品でした。
最後になりますが、拙い文章におつき合いいただきありがとうございました。