針生 弘
言葉には不思議な力があります。人々の様々な経験の中から生まれた豊かな言葉は,時として私達に希望や勇気を与えてくれることがあります。この『子どもに贈りたい130の言葉(佐々木勝男 民衆社)』には,著名人や現在様々な分野で活躍されている方々のはげましの言葉やメッセージが載っています。作者は,この本の中にある「言葉」を導きの糸として,言葉を引用した本や作品に直接触れることで,より豊かな「言葉の花束」を手にしてほしいと述べています。本書は「そのままで;ありのままが一番いい」「自信をもって;その気になれば,何だって」「友だちのこと;手をつないで,歩きだそう」「信じること;信じる心はたからもの」など10の括りで構成されていますが,ここでその中からいくつかの「子どもに贈りたい言葉」を紹介したいと思います。
・「私は実験において失敗など一度たりともしていない。これでは電球は光らないという発見を,今までに二万回してきたのだ。(トーマス・エジソン)」
・「私がノーベル賞をいただくきっかけとなった発見をすることができたのは,間違った薬品を混ぜた試料を,もったいないと捨てずに使ったからですが,そう思ったのは,子どものころから耳にたこができるほど,もったいないと言われ続けてきたからなのです。(田中耕一『生涯最高の失敗』朝日新聞社)」
・「大変な仕事だと思っても,まずとりかかってごらんなさい。仕事に手をつけた,それで半分の仕事は終わってしまったのです。(アウソニウス;古代ローマの詩人『よい言葉は心のサプリメント』二見書房)」
・「人間というものは,本当に一人では生きることができないものです。お互いに支え合って人という字ができているわけです。人間という字は人の間と書きます。(三浦綾子『永遠のことば』主婦の友社)」
・「屈しない心は折れる。よく萎える心は折れない。(五木寛之『養生の実技』角川書店)」
・「国の魅力とは,実はその国に住む人の魅力ではないかと思うのです。この国に暮らす人々が魅力的であれば国そのものが魅力的になりますし,人々に魅力がなければ国にも魅力などなくなります。つまり国とは人と言えるかも知れません。(さだまさし『本気で言いたいことがある』新潮新書)」。
また,本書には,「子ども叱るな 来た道だもの 年寄り笑うな 行く道だもの(妙好人 永六輔『大往生』岩波書店)」や「ほかの人のために自分の時間を使うということは,自分の時間がうばわれて損をすることではないのです。それどころか,他のことでは味わえない特別な喜びで心がいっぱいに満たされるのです。(日野原重明『十歳のきみへ 九十五歳のわたしから』冨山房インターナショナル)」などのように,大人として,親として,教師として,子どもに関わる際のヒントを与えてくれるようなものも多くあります。一部が紹介されているドロシー・ロー・ノルトの詩「子は親の鏡」は,特に有名ですが,その全文については「子どもが育つ魔法の言葉(ドロシー・ロー・ノルト PHP文庫)」の冒頭に載っています。
子は親の鏡
けなされて育つと,子どもは,人をけなすようになる
とげとげした家庭で育つと,子どもは,乱暴になる
不安な気持ちで育てると,子どもも不安になる
「かわいそうな子だ」と言って育てると,子どもは,みじめな気持ちになる
子どもを馬鹿にすると,引っ込み思案な子になる
親が他人を羨んでばかりいると,子どもも人を羨むようになる
叱りつけてばかりいると,子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう
励ましてあげれば,子どもは自信を持つようになる
広い心で接すれば,キレる子にはならない
誉めてあげれば,子どもは,明るい子に育つ
愛してあげれば,子どもは,人を愛することを学ぶ
認めてあげれば,子どもは,自分が好きになる
見つめてあげれば,子どもは,頑張り屋になる
分かち合うことを教えれば,子どもは,思いやりを学ぶ
親が正直であれば,子どもは,正直であることの大切さを知る
子どもに公平であれば,子どもは,正義感のある子に育つ
やさしく,思いやりを持って育てれば,子どもは,やさしい子に育つ
守ってあげれば,子どもは,強い子に育つ
和気あいあいとした家庭で育てば,
子どもは,この世の中はいいところだと思えるようになる
ドロシー・ロー・ノルトは,この「子どもが育つ魔法の言葉」の中で,「子は親の鏡」の詩を一行毎に取り上げ,子育てで大切なことを説き,子どもへの接し方を具体的に書いています。そして愛情と思いやりに満ちた豊かな人間関係の築き方を教えてくれています。良い親,良い教師,よい上司となるためにはどうしたらよいのかという知恵も学ぶことができます。特に,子どもに関わる仕事に就きたいと考えている学生の皆さんに,この『子どもに贈りたい130の言葉』『子どもが育つ魔法の言葉』の一読をお勧めしたいと思います。