2013年3月22日金曜日

【TORCH Vol.014】私がはまった本とそのきっかけ


助教 岡田成弘

「本を読みなさい」

 私が学生時代に両親に言われ続けた言葉です。私は10代から20代のほとんどを、ろくに本を読まずに過ごしました。本を読んだ方がいいということは、何となく分かっていたのですが、それよりも面白いものが周りにたくさんあったため、わざわざ時間をとって本を読むことはしませんでした。

 そんな私を見て親は冒頭の言葉を何度も投げかけてくれました。それでも、私は本を読みませんでした。大学院に進学して、自分の専門分野(野外教育)や論文に必要な本は読みましたが、それ以外の本はほとんど読みませんでした。

 30歳になった今、私は本を読んでいます。忙しくて時間が取れないときもありますが、月に1〜2冊くらいのペースで読んでいます。

 私には、本を読むきっかけがありました。2010年12月(27歳)、左膝膝蓋骨を骨折し、手術・入院する羽目になりました。かなり落ち込んで、ちょっと自暴自棄になりかけましたが、今思うとこの入院こそが、私が本を読むきっかけになりました。入院中、やることがなく暇を持て余していたので、彼女(今の嫁)が持って来てくれた本を読むことにしました。彼女は、長編は疲れるだろうと気を遣い、彼女が好きな作家の短編小説集を何冊か買って来てくれました。私は、入院中にそれらの本を読み、「ゆっくり本を読むのも悪くないな」と思いました。その時読んだ本が、奥田英朗の「イン・ザ・プール」、「空中ブランコ」、「町長選挙」、それから東野圭吾の「怪笑小説」でした。

 そして、退院し、横浜の実家で少し時間を過ごした後、電車で筑波に戻る時、北千住駅で乗り換えの時間があったので、エキナカのランキンランキン(ranking ranQueen)に何気なく入りました。そこで、今売れているランキング1位の東野圭吾の最新作「白銀ジャック」が目に入りました。

「東野圭吾は入院中に読んで面白かったし、ランキング1位だし、買ってみるか」

 そんな軽い気持ちで購入した本ですが、今思うとそれが大きな転機となりました。電車の中で、久々の長編小説を読みながら、小説の世界にどんどんはまっていく自分に気がつきました。電車を降りても続きが気になり、筑波の家に着いてからも食事も食べずに、そのまま最後まで読み切りました。

「東野圭吾はこんなに面白いのか」

 数日後、本屋に出向き、東野圭吾作品で、売れているという「秘密」、「容疑者xの献身」を購入しました。この2冊もまたはまりました。その後、古本屋で「白夜行」と「幻夜」を購入し、数日で読破。それから、東野圭吾好きの友人から、10冊をまとめ借りし、足を怪我して思うように動けないという状況も後押しして、それら全てを1ヶ月で読み切ってしまいました。それ以来、今でも東野圭吾にはまっています。

 東野圭吾をよく読むようになると、身の回りで少し変化が生じました。友人と、本の話をするようになったのです。実は多くの人間が、東野圭吾にはまっているのだと気がつきました。ある時は、どの作品がベスト3だという論争を繰り広げ、ある時は話が盛り上がったテンションで「容疑者xの献身」をツタヤで借りてプロジェクターで上映したり・・・。その後は、嫁や母親に紹介されたダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」や「天使と悪魔」にもはまりました。これまたファンが多く、ダン・ブラウントークで盛り上がりました。本を読むということが、人間関係にも影響するとは、昔は考えたこともありませんでした。今でも、東野圭吾を紹介してくれた嫁と一緒に、月に1回くらいは大河原図書館に行き、東野圭吾を数冊借りてきます(その全てを読めているわけではありませんが。)

 そうやって本にはまってから、時々、冒頭の「本を読みなさい」という言葉を思い出します。あれだけ言われても本を読まなかった私が、今これほど本を読む(読みたいと思う)ようになるとは自分でも想像していませんでした。その後、両親に私の考えを伝えたことがあります。

「本を読め、本を読め、というのではなく、とにかく面白い本を1冊紹介するだけでよかったのに・・・」

 今では、母親は私に面白い本を薦めてくれます。

 学生の皆さんの中には、きっと学生時代の私と同じように、色んな面白いものやことに囲まれていて、わざわざ本を読む時間をとろうと思わない人も多いでしょう。私は「本を読みなさい」とは言いません。その代わり私は、私の好きな本を紹介するに留めます。怪我でも、長時間の移動でも、実家に帰って暇な時でも、何かきっかけがある時に読んでみて下さい。

 私の経験則から、5人以上が「面白い」と言っている本は、大体外れがありません。ただし、テレビやネットの情報ではなく、自分の周りの身近な5人です。自分の身近な人は、少なからず自分と価値観が類似していると思われますし、そういう人のうち5人以上が面白いというのだから、自分も面白いと思うはずです。まずは、自分の身近な人に、どんな本(作家)が面白いのかをリサーチしてみて下さい。その中で、きっと複数名があげる作品や作家がいるはずです。そして、5人以上があげた作品や作家を覚えておいて下さい。いつか、本を読むきっかけが来る日まで。

 以下は、私がお薦めする本です。今私は、難しい論説や自己啓発本は読んでいません。長編小説が面白いと思っています。でもこうやってみると、ドラマや映画化されているものが多いので、やっぱり面白いんでしょうね。

東野圭吾作品 私のベスト3
1. 秘密 
2. 時生 
3. 悪意 or 容疑者xの献身

 ストーリーや魅力は敢えて書きません。東野圭吾の作品は、緻密に計算された布石が最後でつながり、ラストに「えーーーーっ!!」というサプライズが用意されていることが多いです。その他にも、斬新な手法を用いたり(悪意は作品の書き方自体が面白かったです)、下らない馬鹿話をまとめたりと(歪笑小説などの笑小説シリーズ、超・殺人事件等)、何十冊読んでいても飽きません。

私のお薦めの作品
★ダン・ブラウン「ダ・ヴィンチ・コード」、「天使と悪魔」
 母親や嫁に薦めてもらいました。展開がスピーディーで、次はどうなるのかワクワクハラハラしながら読み進めました。レオナルド・ダ・ヴィンチやキリスト教、バチカン市国のことについて「へー」や「なるほど」がたくさんあり、知的教養も深まりました。2013年序盤に話題になったコンクラーベについても、「天使と悪魔」で知りました。

★重松清「流星ワゴン」
 崩壊寸前の家庭を持つ主人公が、交通事故死した親子のオデッセイに乗り込むことから物語が始まります。重苦しいシーンもありますが、主人公が過去や今を行ったり来たりする中で、家族や親子について色々考えさせられる一冊です。途中で思わず涙しました。東野圭吾の「時生」もそうですが、30代目前になって親父と息子を描く物語に少々惹かれてしまうようです(笑)

★東野圭吾「天空の蜂」
 奪取された超大型ヘリコプターに爆薬を積載させ、稼働中の原子力発電所に落とすと脅迫して来たテロリスト。福島原発問題の10年以上も前にこのテーマで問題提起をしていた東野圭吾の視点に脱帽しました。原発やヘリコプターについての専門用語が多くてしんどい箇所もありましたが、スリリングな展開に一気に読破できました。