現代武道学科 教授 伊藤重孝
縁があって職員の立場にあり、その任に相応しい学生との対話、知識、手法を研鑽すべく、図書館のお力添えを頂き、文献をあさり乱読の状況にあります。未熟ながら、仰せにより紙面を汚させていただきます。
さて、甚だしい勘違いであるが、生活の知恵と知識の区別を安易にし、「知識はないが知恵はある」と自負し、疑うこともなく思い込んでいた。しかし、「物事の理を悟り適切に処理する能力」には知識と知恵を切り離せない一体の関係にあるという、現実を悟らず愕然とする始末。今日、この程度の自分が、寄稿の指名に戸惑いつつ・・・・・失笑を覚悟です。
昭和57年、論文作成のため各種文献を乱読したが、その中に「縮」志向の日本人(李御寧)がありました。日本の短歌、俳句等や扇子、ラジオ等のように、縮めて日本オリジナルの文学、科学技術とする等々の論調であった。
当時はなるほどという内容であったが、30年を経過した昨今、いかなる次第は不明ですが
再度、話題になっているようです。しかし、現在はフロッピーからUSBまで情報の「縮小」コンパクト化傾向は、止まるところを知らない状況にあります。
自分は、警察大学において組織の執行力向上を目的とし、経験実学という限定的な内容で、職務を通じて同一線上にある関係者教育であり、経験から安易に引き受け今日をむかえている。
これまでの指導に関する手法は、学問、知識ではなく、失敗の反省経験から学んでいた。
しかし、対象となる学生の多彩、教育の内容の多岐に困惑し、「教育・伝達」とその「手法と真髄」等の関連文献を探し求め、図書館スタッフには大変お世話になっています。
この度、研究課題「動物(馬)を介した心理・教育的アプローチ」を共同研究するにあたり、何気なく実施した乗馬の経験から、馬に対し、何をどのように伝えるか、その結果の検証等・・・・に関連し、試行錯誤のさなかに巡り合った一冊
- 平田オリザ著「わかりあえないことから」コミュニケーション能力とは何か
を読み「目からウロコ」までは行きませんが、得るものがあった。
<伝えたいという気持>
子供の中に(自分達の中に)ないのなら、「伝える技術」をどれだけ教え込もうとしたところで、「伝えたい」という気持ちがどこから来るのだろう。その技術は定着していかない。では、その伝えたいという気持ちそれは「伝わらない」という経験からしか来ないのではないかと思う。今の子供たちには、この「伝わらない」という経験、コミュニケーション教育の問題も、おそらくここに集約される。・・・・・・一番いいのは、体験教育だ。障害者施設や高齢者施設を訪問し、ボランティアやインターンシップ制度を充実させる。外国人とコミュニケーションをとる・・・・・・
<慣れのレベル>
今、中堅大学では、就職に強い学生は二つのタイプしかないと言われている。一つは、体育系の学生(きびきびした言動)、もう一つは、アルバイトをたくさん経験してきた学生・・・・・・・能力云々・・要するに大人(年長者)とのつきあいに慣れている学生ということだ。・・・20歳を過ぎたなら「慣れも実力のうちだよ」・・・能力云々、これに対する批判は、正しいと思うが、・・・負け犬の遠吠えだけでは生きられないと思う。
以上は「わかりあえないことから」の抜粋であります。
筆者は、人が人に意思を伝える能力の向上手段を「演劇の教育学」から知的価値としての「コンテクスト活動での成長」すなわち、コミュニケーションデザインへと論じている。研究のテーマは動物と人とのコミュニケーション行動から、人と人とのコミュニケーション能力向上に発展させるものであります。電車の中で友人と一緒に座り、会話もせず夢中になってスマホを操作する姿をみると・・・しかし、会話が下手になったのではなく、昔は、以心伝心のように黙っていても理解し合えることが、美徳とされ、今は、むしろ表現力の面では確実に豊かになっている。
それは、服装、ダンス、唄、演劇等々多岐にわたり、一方ではペットの動物と関わり、交わりも癒しとして存在し、それぞれに表現の方法が必要とされ多くなったとも言えよう。
人間が母音、子音を駆使し会話へ進化した過程と、動物が声を発する行為は、言葉の意味につながるものなのか、自然界における自由な動物の姿と、調教された動物の従順な姿との差違、これがコミュニケーションに値するものと言えるだろうか。
動物を介した場合これがどのように進展するか等々、先が見えない高い山は多々あるが、本学における足跡として後世の人々に評価されるものとしたい。馬の背は高いが、怖いものではありません。体験乗馬によるデーター収集へのご協力、幅広い参考意見は大歓迎です。皆様のご協力をお待ちしております。
所蔵Information <図書館で探してみよう!>
- 平田オリザ著 「わかりあえないことから」 講談社現代新書
361.45 Ho 図書館1階