2013年3月18日月曜日

【TORCH Vol.013】本格的読書の前に、きっかけとしての「漫画」~日本文化の「漫画」から読書を考える~


講師 石丸出穂

 ここで執筆された先生方もそうであったが、私も学生時代に活字本をたくさん読んでいたかというと、実はそうではなかったと思う。必要に迫られてか、興味が自然と湧いてきたのか、大学院生時代頃からさまざまな本を読む機会が多くなった。私は大学の業務上、出張が多い。電車やバスでの長時間での移動中は、なぜか読書が進む。出かけるときには必ず数冊の本と、家電教員(?)必須アイテムのiPad(ダウンロードした本や、自ら自炊した本を入れている。雑誌も含めると100冊程度、常時入っている)を持って行く。最近iPad miniを購入し、さらに持ち出しやすくなった。読書は本当にさまざまな知識と経験を与えてくれる。一言でいうと、世界観が広がる。この知恵の宝庫の魅力を知ると、本屋さんに足を運ぶことが本当に楽しくなる(ちなみに私は、電気屋と本屋がなぜか一番落ち着く)。しかし、大学生時代やそれ以前に本を読んでいなかったわけではなく、その頃たくさん読んでいたのは、「漫画」だ。おそらく今の学生たちも多くは、「漫画」は読んでいるのではないだろうか。

 私の小学生時代は、週刊少年ジャンプの全盛期だった。今でも「ONE PIECE(1997年~現在)」は大人気の作品であるが、当時は「キン肉マン(1979~1987年)」「キャプテン翼(1981~1988年)」「北斗の拳(1983~1988年)」「ドラゴンボール(1984~1995年)」などを毎週欠かさず読んでいた。他の雑誌で読んでいた作品では、「YAWARA!(1986~1993年)」「オフサイド(1987~1992年)」「修羅の門(1987~1996年)」「シュート!(1990~2003年)」「20(21)世紀少年(1999~2007年)」など、映画化されたりドラマ化された作品も多く、「はじめの一歩(1989年~現在)」「リアル(1999年~現在)」「キングダム(2006年~現在)」「鉄拳チンミ(1983年~現在)」「龍狼伝(1993年~現在)」と、今でも楽しみに購読している作品も多い。空想の世界であるが、ワクワクしながら読んでいたものだ。

 私が高校生時代に、受験勉強の助けにもなった歴史ものの作品に、「三国志(1971~1986年)」がある。横山光輝氏による史実に基づいた物語で、主人公の劉備玄徳と曹操との対決を中心に描かれている作品ではあるが、“桃園の誓い”で知性と武力を兼ね備えた関羽と、豪傑張飛との義兄弟の契りを結ぶ場面や、諸葛亮孔明を“三顧の礼”をもって軍師に招き入れる場面など、歴史ももちろんであるが、人間としての義理人情の部分も描かれている。“赤壁の戦い”では、軍師を中心にした戦術・戦略のやり取りなど、今振り返ってみると、私が専門としているスポーツ情報戦略につながる、戦うためには緻密な戦略と情報が必要であることを、考えるきっかけとなったと思う。なにより物語の人間模様を読みながら、“徳”について学んだところは大きかったと思う。全60巻と大長編であるが、興味のある方はぜひ手にとって読んでもらいたい。

 スポーツを題材にした作品で特に印象に残っているのは、「スラムダンク(1990~1996年)」だ。恥ずかしながら高校生時代、スラムダンクに登場する、三っちゃんこと三井寿の「安西先生、バスケがしたいです」のシーンで、コンビニで立ち読みしながら涙したくらいだ(他にも安西先生の言葉には名言が多くある。「あきらめたらそこで試合終了だよ」は、最後まであきらめない、メンタルの重要性を教えてくれている)。そこには間違いなく感動と、言い過ぎかも知れないが教育の側面があったのではないかと、今思うと考えられる。

 関連して、「スラムダンク」を題材にした、いわゆる活字本が出版されているのはご存じだろうか。「スラムダンク勝利学」「スラムダンク論語」「スラムダンク武士道」「スラムダンク孫子」などだ。あの頃を思い出し、思わず手に取ってしまった。そこにはスラムダンクの登場人物の特徴を捉え、それを学術的(?)に説明し、試合に勝つための考え方とは、論語とはどういう学問なのか、日本古来の武士道とは一体何なのか、孫子の戦術とは、など、わかりやすく解説している。「論語」「武士道」「孫子」だけでは、堅苦しそうでなかなか本として手に取れないが、自分が好きだった漫画の世界からひも解いて解説してあるこれらの本は、本格的な学問の世界に飛び込む、よいきっかけとなる。漫画好きの学生たちにも読んでもらいたい、お薦めの本たちだ。

 スポーツの世界からは少し離れるが、日本アニメ界の巨匠、宮崎駿氏の作品の一つである「風の谷のナウシカ」は、みなさんアニメ映画としても一度はご覧になった作品であろう。実は、この「風の谷のナウシカ」は、「漫画」としての作品(1982~1994年)でもあり、映画化された場面は、全7巻中、ほんの2巻程度しか描かれていないことはあまり知られていない。私は大学時代に機会あってこの全巻を手に入れ、何度も読み返したが、実に奥が深く、一度読んだだけではなかなか理解が出来ない、難しい内容である。火の7日間戦争で近代文明が滅んだあとの世界という設定が舞台で、腐海と呼ばれる死の森の瘴気におびえながらも、この世界とともに生きていこうとする人々を描いている。ナウシカを中心に、腐海はなぜこの世に生まれたのか、読みながら現実世界にも通じる世の中の謎を解く旅に出ることが出来る。人間の傲慢さと愚かさを見ると同時に、やさしさと力強さ、を知ることも出来る。「人間は世界の残酷さと美しさを知ることが出来る」という最後のナウシカの言葉は胸に刺さる。腐海や巨大な虫たち、オームや巨神兵に至るまで、現実世界に生きる人間そのものを表しているのだ。お固く言えば、現実社会でも問題提起されている、環境汚染、地球温暖化問題などを独自の目線で切り込んでいる。とにかく機会があれば一度読んでほしい作品である。

 私の専門であるバレーボールについて描かれている作品は、「アタックNo.1(1968~1970年)」「涙のバレーボール(1986~1987年)」「健太やります(1989~1994年)」「リベロ革命(2000~2002年)」など、野球やバスケット、サッカーを題材とした作品に比べると格段に少ない。「キャプテン翼」や「スラムダンク」の影響で、サッカーやバスケットを始めた人たちも多いと聞く。小・中学校世代の男子バレーボール人口が激減している昨今、新しく連載され始めたバレーボール漫画に、期待しているバレーボール関係者は私だけではないはず・・・。

自ら所有する雑誌や書籍を、スキャナーを使用して電子媒体に変換する行為


所蔵Information <図書館で探してみよう!>
図書館には残念ながら漫画は収録されていないのですが、設置してあるフリーペーパー『スポーツゴジラ』(キーナート先生ご提供)の第18号の特集「スポーツマンガは凄い!」では、様々なスポーツマンガが紹介されています。