教授 賞雅 さや子
私の専門分野は保育・幼児教育ですが、「育つ」「育てる」ということ全般に関心があります。ご紹介する、アリソン・ゴプニック著、渡会圭子訳、森口祐介解説『思いどおりになんて育たない-反ペアレンティングの科学-』(森北出版、2019年)は、心理学者・哲学者である著者が「親が子を育てる」という営みを科学的に追及する専門書でありますが、私はこの書を読んで、子どもだけではなく、若者も、大人も、そして私自身も「思いどおりになんて育っていない、育てられない」とひどく納得した、そんな1冊であります。
「親が子を育てる目的とは何なのだろうか。子どもの世話はきつくて骨が折れるが、たいていの人が深い満足を感じている。それはなぜなのか。それだけの価値があると思える理由は何なのだろうか。」という問いからこの本は始まりますが、著者はこの問いに対して「現在のペアレンティング(親がなすべきこと)と呼ばれるものの考え方は、科学的、哲学的、政治的な観点から、そして人の生活という面から見ても、根本的に誤りであることを論じたい」という立場で、つまり、解説者の森口祐介氏の言葉を借りると「世の中にあふれる育児書に対する不満をぶつけて」、子どもの発達、学習、遊びなどについて論じています。
本書の原題「The Gardener and the Carpenter(庭師と木工職人)」は、ペアレンティングがこうあるべきと推奨する親像を木工職人に、著者の提案する親像を庭師に例えたタイトルです。木工職人は設計書に従って材料を組み立て、頭に思い描いた品物をいくつでも同じ形に作り上げるのに対し、庭師がいくら念入りに計画を立てて、丁寧に世話をしても、思ったところに思うように花が咲かなかったり、病気になったり、枯れてしまったり、時には蒔いた覚えのない芽が伸びてきたりもします。子どもも植物同様思いどおりには育たないものだし、子育ても園芸のように「思いどおりにいかない」ものであることをイメージするものです。
ではなぜ育てるのか。育てることに価値があるのはなぜなのか。どのように育てたらよいのか。その答えはぜひ、本書をお読みいただき、考えてほしいと思います。この書は子育てに関する本ではありますが、私にとってそうであったように、子育てにとどまらず、広く養成や教育(育てること)、さらには私がどう生きるかということにまでヒントを与えてくれるものと思います。