講師 溝口絵里加
近年の日本スポーツ界は、日大アメフト部の悪質タックル問題、体操やレスリング界のパワハラ問題、日本ボクシング連盟会長の不正問題等々、不祥事がたくさんありました。ただ、これらの問題は近年、同時に「発生」したのではなく、「発覚」した問題だと思います。ずっと以前から行われてきた日本スポーツ界の悪しき伝統、風習が明るみになり、起きるべくして起きた事態と言えます。
そこで私は、スポーツに携わる者として、少しでも日本のスポーツ界を良くするためのヒントを求めて、今回ご紹介する本を手に取りました。
著者はアメリカ・スタンフォード大学のアメフト部でオフェンシブ・アシスタントを務められている河田 剛さんという方です。本書では、指導現場を知る立場から、日米のスポーツ事情や、アメリカのスポーツにあって日本のスポーツにないものや、日米のスポーツビジネスのシステムの違いを明らかにし、日本スポーツ界の問題点を挙げると共に、未来の発展に向けた提案をしています。
本書の中で、私が特に驚いたこと、考えさせられた内容を挙げてみました。
1.
大学スポーツの経済規模の大きさ、指導者の待遇
・キャンパス内に11万人を収容できるスタジアムがある
・学生アスリートを指導するコーチの年俸が10億円を超える
・大学は、スポーツによって年間100億円以上の収益を上げている
2.
セカンドキャリア支援の充実ぶり
・所属するプロチームが選手の大学卒業にかかる費用を負担する
・博士号取得にインセンティブを出す
3.
マルチスポーツに関する規定
・オンシーズンとオフシーズンを明確に定め、オフシーズンの練習を原則的に禁止する
・練習、活動時間の制限を行う
この他にも、多くの観客を虜にする大学生アスリートたちが、「ふつうに勉強している」ことにも大変驚きました。ある一定の成績を取らなければ、いくら“強くてすごい選手”であろうとスポーツの練習や試合に参加することが許されない。つまり、勉強せざるをえないシステムが存在することに、私は衝撃を受けました。
さて、日本スポーツ界のあらゆる問題点は、経済性が向上すれば解決する部分が多くあるのではないかと思うことがあります。スポーツをビジネスとして捉えるのが強く根付いている海外では、多くのスポーツがビジネスとして発展し、得られた利益をもとに選手や競技団体の強化が行われています。しかし、日本はスポーツを「教育」の一環として捉え、スポーツをビジネスとして捉える風潮がまだまだ根付いていない気がします。もっとお金が入り、回るようにするには何を改善し、どう取り組むべきなのか?それを考える上で参考にすべき事案がこの本にはたくさん挙げられています。
日本のスポーツ界、特に学生スポーツ界が大きく変わるための手本として、アメリカのシステムは非常に参考になると思います。ただ、必ずしもアメリカのシステムがすべて良いというわけではなく、その点は著者も本文中で何度も繰り返し言っていますが、日本のスポーツ界の現状と比べるとはるかに優れているのは間違いないです。
ぜひとも、スポーツに関わるすべてのアスリートや指導者、スタッフに読んでいただきたい一冊です。