体育学科 講師 林直樹
25年前、私が大学三年生の時に入ったゼミナールの授業で使われた本が、今回紹介する「日本語の作文技術」(本田勝一著、1982年、朝日文庫)です。「『事実的』あるいは『実用的』な文章のための作文技術を考えるにさいして、目的はただひとつ、読む側にとってわかりやすい文章を書くこと、これだけである。」という冒頭章での「宣言」が非常に印象的でした。この本に出会うまでは、経験則に基づいてただ漠然と文を書き連ねていただけでした。しかし、文を書いたら(日記やメモを除いて)読み手が必ずいるということ、その読み手がわかりづらいと感じる文は書き手の不心得であるということを初めて考えることができました。
実際にわかりやすい文を書こうと一念発起してみても、その手法自体が曖昧でわからないというのが現実だと思います。この本ではその手法・手順を具体的に示してくれています。そこにはいままで知らなかった世界が広がっており、読み進めていき実際に文を書くことがとにかく楽しくもあり、同時に恐くなりもしました。いい加減な文を書けないということを知ってしまったのです。様々な法則や技術を学ぶことができたが、最たる例は修飾語が複数ある場合の語順についてです。このような場合には下記のような法則に当てはめて考えます。
(1)節を先にして句を後にする。
(2)長い修飾語を前に、短い修飾語は後に。
(3)大状況から小状況へ。
(4)親和度(なじみ)の強弱による配置転換。
具体例をあげてみます。「速く」「ライトを消して」「止まらずに」という3つの修飾語が「走る」という言葉にかかる場合、6通りの語順がありますが、「速くライトを消して止まらずに走る」や「ライトを消して速く止まらずに走る」というものは、「速く」が「走る」にかかっているのか、その前の「ライトを消して」や「止まらずに」かかっているのかがわかりづらい文となってしまいます。しかし、上記(1)(2)の法則に当てはめると、「ライトを消して止まらずに速く走る」となり、すっきりとしたわかりやすい文となります。文章論やハウツー本というよりも日本語自体の性質を正しく理解して正しく使うことを考えられる一冊なのです。
現在、一年生必修の「学習基礎教養演習」という文章作成の授業を担当していますが、参考図書としてこの「日本語の作文技術」を使用しています。文字を記して文章という形で自分の考えや思いを表現することは人間のみが持つすばらしいコミュニケーションの形態です。しかし、文章において示した意図がうまく伝わらずに誤解をまねくことは少なくありません。また、レポートや卒業論文などの文章記述が不得意だという大学生は非常に多いように思います。この一冊は諸々の記述に関する助けになることはもちろん、コミュニケーション能力の鍛錬や日本語の再学修にも繋がると考えられます。LINEやメールなどの「文字」文化が加速度的に発達している現代社会だからこそ、日本語の構造を学び直す
チャンスなのではないでしょうか。