井上 雅勝
浅学菲才な読書歴ですが、これまで私に最も影響した一冊の書籍を紹介させていただきます。情報化がすすむ現代社会において、若者だけでなく多くの人たちが活字離れ、書籍離れしていると言われています。しかし、人間というものは、必要に迫られれば、本の扉をたたき、その世界から多くの影響を受けるものと思っています。当然ながら数多くの本を読み勉強を重ねることに、超したことはありません。
さて、私は下手の横好きで現在も剣道の修練中です。一向に進歩・上達が見られず、中断が幾度かあったものの、中学生から細々と継続しております。本来ならば、少なくとも週に三回程度は稽古をしなければならないのですが、月三回程度に止まっております。実は、剣道を長年続けることになった理由の一つが、必要に迫られながら偶然購入した「剣道の楽しみ方」との出会いでした。
これは、東西社から出版されたレジャー・シリーズ13巻の中の一冊として中野八十二先生が著されたものです。昭和41年8月に初版が発行され、ポケット版サイズで250ページからなる解説書で、写真や図解がふんだんに取り入れられていて、小学生から大人まで幅広い剣道愛好者向けの内容です。
当時、私は中学校2年生で剣道部に所属していました。剣道部には専門の先生がおられず、部員同士で週1~2回程度の楽しい練習をしていました。そのような中でも昇段審査を受けるために、学科試験対策として、本のタイトルに惹かれて、仙台の金港堂にて380円で購入し、剣道の基本的な知識などを勉強しました。参考にした箇所は、おそらく「4章 試合のひけつ」だったと思います。結果的に見事、初段に合格し喜んだことが思い出されます。しかし、昇段審査合格後も、「3章 剣道の技法」、「5章 剣道の上達法」が後々の練習に大いに参考になりました。書いてある内容は、中学生にも理解しやすい文章表現で理論的な裏付けも明確であり、さらに写真がふんだんに取り入れられているため見やすいものでした。その写真のモデルは、著者の中野八十二先生でした。その写真が印象に残るぐらい格好良く、また剣道場での練習風景も整然としてあこがれるような場面が数多く掲載されており、そのような環境で稽古してみたいと、この本を何度も読み返すうちに思うようになりました。その道場は、今はもう無くなってしまった東京教育大学体育学部の剣道場(東京都渋谷区幡ヶ谷)で、もちろん著者の中野八十二先生が東京教育大学体育学部の剣道の先生(当時、中野先生の剣歴等については何も知りません)でした。それが影響したのかどうかは、定かではありませんが、私はいつの間にか筑波大学(前進が東京教育大学)で剣道を学ぶことになり、今も続けている状況です。
現在、書店等で購入でききるか不明ですが、今読み返しても大いに参考になる良書であると思います。剣道に関する数多くの書籍のモデルを提示していると思います。また、内容が一般愛好者から専門家まで通じるように、一貫して人間形成に通じる視点から論じています。是非、一読を勧めます。
本との出会い、これは偶然かもしれません。しかし、本を読むことにより潜在意識にかなりの影響を及ぼすことは、間違いのない事実です。私ように必要に迫られて影響を受ける場合もありますが、そうではなく、多くの影響を受けるためにも自ら進んで読む必要があると、これまでの人生を振り返り改めて感じている次第です。今後、大いに活躍が期待される学生諸君に、数多くの名著との出会を期待して拙文とさせていただきます。