教授 大山さく子
「星の王子さま」というタイトルやメルヘンチックな挿絵に騙されてはいけませぬ。
『いちばん大切なことは、目に見えない。』
いつの頃からか大切なものを何気に忘れてしまっているのだろう。小さかった子供の時って何が大切だったんだろう。この物語は、それが思い出せなくなっても、また大切なものが見つかった時に読み返すと再認識させてくれる。子供だった自分、あの頃に戻れる一冊なのです。
「一期一会」日々いろんな人達と出会い、私たちは生かされている。」
「心で見るんだよ、目には見えないからね。」
私は、少女期にこの物語と出会い、人によって物の見方が違い、自分の物差しで見てはいけない、そして想像力の大切さを知りましたが、正直、登場人物の支離滅裂かつ単純な言葉のやりとりに意味が判らずにいた記憶があります。
次に青年期にこの物語を読み返して、その発言や行動から見えてくるもの、言葉の重さと痛さを知り、じんわりと私の心に染みわたりました。
そして、壮年期に私が出会った人の言葉に、再びこの本を真面目に読むきっかけを得て、言葉の意味、物語の裏に隠されたものを想像し、心にある温かさと冷たさを知りました。今の自分が失くしてしまったものに気づきました。
私にとっては、躓いた時、自分を見詰め直す時に、繰り返し読む大切な一冊です。新たに言葉の意の発見、歳を重ねる毎、定期的に繰り返すほどに、未だ全く違う世界を教えてくれる不思議な一冊となっています。
個人的には、これは大人の本であると思っており、どこの本屋さんに行っても何故児童文学書棚にあることに未だ理解が出来ておりません。何時になっても人としての「基本の基」を考えさせられる一冊なのです。タイトルや挿絵に油断をしてはなりません。目に見えない大切なものを時を超え、歳相応に教え続けてくれます。
文章に書くと実は深過ぎて哲学的になってしまうのですが、とっても単純な文章を並べており数時間で読める本です。
この一冊の魅力に全世界で8000万部、日本で600万部の不巧な名作と云われる理由、いろんな人が翻訳を発表されていること。アントワーヌ・ド・サン・テグジュペリが描いた文章を翻訳する人によって伝え方の違い、思い入れの違い、単純な文章の中に大切さを感じる事に出逢えます。
もう一つの楽しみ方、今なおこうして愛されているサン・テグジュペリは、各地にミュージアムが建設されており、それを巡り覗き観るのも素敵なことです。私も伊豆にあるミュージアムに出掛けた事がありますが、拝観している人達を観ているだけで同じ感動を受けた同士と勝手に想い、何故か温かい幸せな時間を過ごした記憶を覚えております。また、作者のサン・テグジュペリの生き様を探り、彼の願いを知るのも面白い一考であります。
もう一つの魅力、絵本でもないのに挿絵も素敵で色んな人が描いています。本屋さんの洋書フェアで海外の作家の挿絵の本を発見すると心躍ります。定期的に読み込んでくると、先のミュージアムで購入した挿絵の葉書を見るだけで、一日一日がとても大きな存在で些細な事で悩んでいる自分に気づかされます。
そして最後に、私達は世界で唯一の被爆国であること、2年前の3.11あの悲惨な震災を体験した被災者「語り部」なのです。
今、貴方にとって一番大切なことはなんですか
出会いと別れ、生と死、私は人との巡り合わせとは偶然ではなく、必然性があるものと想っています。
3.11あの時、私たちは「幸せ」についてどれほど考えたでしょう。
「夜になったら星を見上げる。そのどれか一つに、貴方がいるから。それだけで幸せになれる。」
純粋な素直さ、個性や想像力の大切さ、大切な人、ふるさとの良さ、絆を結ぶことの意味、これまで気に止めていなかった事が煌きに変わり、心を満たす。目には見えないけれど、かけがえのない絆の大切さ、希望を持つか持たないかで世界観は変わる。これは、きっと作者の願いでもあり、私たちは貴重な経験となったのです。
考え方、想い方は読み手により十人十色ですが、きっとこの物語は、「いちばん大切なこと」を、そっと教えてくれる大切な言葉が詰まっている「深いぃ物語」です。
「幸福な味を知りたくありませんか」人と接する為の素敵なキーワードに出逢えます。
きっと自分の何かが変わります。私がそうであったように・・・
私も本棚から取り出して、もう一度読み返すことにしました。
読むのは「今でしょ!」一読あれ・・・。
星の王子さまの信派
「人生を最高に旅せよ」/ニーチェの言葉より