仙台大学教授 粟木一博
①「スタンフォードの自分を変える教室」 ケリー・マグゴニガル著 神崎朗子訳 大和書房
②「パーソナリティー障害とは何か」 牛島定信著 講談社現代新書
③「これが物理学だ!」ウォルター・ルーウィン著 東江一紀訳 文藝春秋社
④「ふふふふ」 井上ひさし著 講談社文庫
⑤「にんげん蚤の市」 高峰秀子著 新潮文庫
⑥「贈与の歴史学」 桜井英治著 中公新書
⑦「統計学が最強の学問である」 西口啓著 ダイヤモンド社
⑧「わかりあえないことから」 平田オリザ著 講談社現代新書
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これらは私が平成25年の年明けから今(2月18日現在)までに読んだ本のタイトル、著者、出版社の一覧である。大体一か月に4から5冊程度本を読む。もちろん、必要に迫られて手に取ったり、目を通したりする本があるのでもう少し増えるが、これが多いのか少ないのかはわからない。一年が過ぎると本棚にその年に買った本が増えていることになる。
当たりもあればハズレもある。もったいない?しかし、くじは引いてみなければわからないところにその醍醐味がある。ただ、読書がくじと少し違うところがあるとすれば、経験の積み重ねによって当たりくじを引く確率を高くすることができるということだろうか。
人間は合理的に行動しているのかというと決してそうではないということをわかりやすく解説してくれるのが①である。5分後に増加することがわかっていながら目先の報酬に目がくらんでしまう行動に関する実験など刺激的な内容が満載だ。しかし、「5年後の報酬などいらない」となると地道にトレーニングを積んでいるアスリートはどうなってしまうのだろうか。太古の昔、生存のために必要とされた欲求をすぐに満たそうとするメカニズムが現存しいることがこの根拠となっているのだが、計画的で、長期的な目標の達成には何が必要か、スポーツでハイパフォーマンスを目指す人にも参考になる一冊である。
みなさんの身の回りにいる「性格の悪い人」「ちょっとおかしな人」のとらえ方が少し変わる本、それが②である。風邪などの病気にかかった場合、日常生活をいつも通り送ることは難しいし、周りの人にもいくらかの負担を強いることになる(例えば仕事を代ってもらったり、看病してもらったり)。しかし、熱やのどの痛みに最も苦しむのは自分である。著者は性格もこれと同じで、周囲に迷惑をかけるのと同じくらい、本人も悩んだり苦しんだりしているというのである。本書はその捉え方について書かれた一冊である。
最近、NHK教育の夕方の番組でも公開講義を行い、人気を博しているのが③の著者である。③はこの講義録と著者の背景をまとめたものであるが、「空はなぜ青いのか」「雲はなぜ白いのか」などの素朴な疑問に実験で明快な解答を与えてくれる。著者は物理学が嫌いな人間がいるのは、物理を教える人が努力をしていないからだと手厳しい。物理学が不得手な人でも十分楽しめる内容だが、授業というものに対して真摯に向き合おうとする気持ちにさせられる。
井上ひさしの比較的近年のエッセイを集めたものが④である。この中に「失言集」という一文がある。短い文章の中で「失言」の類型化(いや、構造化)を行い、最後には「完全無欠の失言」の実例を挙げて文章を結んでいる。おもしろい。
長い電車の中で読むために駅の売店で手に取ったのが⑤である。「二十四の瞳」(壺井栄の原作は有名。この大石先生役が著者)や「喜びも悲しみも幾年月」(古いから学生の皆さんは見たことがないだろう。灯台守の夫婦の物語だが夫役は佐田啓二。ちなみにこれは中井貴一のお父さん。妻役が著者。再び、ちなみにこの映画の主題歌が聞きたい場合は●●先生とカラオケに行き、リクエストをすると必ず歌ってもらえる。ただし、お酒が入っている場合がほとんどなので音程や音質はオリジナルと少し異なる。)スクリーンのイメージとは少し異なり、少し酸っぱい思いをする部分もあるけれど、文章は明快で勉強になる。
物事は何でも構造化してとらえることがとても大切だと日頃から考えている。「この問題の最も大切な部分はどこだろう」「この問題を構成している骨組みを考えるとどうなるだろう」と問題をとらえることはどんな分野においてもとても大切だと考えている。⑥は「贈与」という日常的な行為を歴史を軸にして構造化しようとしている書である。私は歴史に関しては「下手の横好き」以外の何者でもないので、正直、よく理解できない部分もあるのだが、何となく(これはとても大切なこころの働き)その面白さを予感しつつ読み通してみた。(面白かったのかどうかは結論が出ていない。でも、読み返してみようという気にはなる。)
データに依って立つことはあらゆる分野において最強の武器となる。⑦が統計学を最強の学問とする根拠である。「ビッグデータ」に対してサンプリングによってデータ収集のコストを下げることができるという主張から、サンプリングの手法、データの関連性に関する分析、データマイニングなど取り上げられている内容は極めて基礎的なものである。データ分析の入門者向きの一冊である。
「表現ができない」ということ「表現したくない」ということ「表現する何かを持たない」ということはそれぞれ同じように見えて実は大きく異なる。「表現しようとする何か」を持たずに表現はできないのだ。⑧は著者が演出家としてのこれまでの経験や知識から、昨今、巷間において重要視されているコミュニケーション能力の本当の姿を紐解こうとする試みがつづられている。さらに、コミュニケーションは正しいことばや文字を教える国語の中で取り扱われる材料なのかという疑問を提示し、現代の教育の枠組みへの提案を行っている。「体育」という教科の中で取り扱われるべき教材は跳び箱やサッカーだけでいいのだろうか。あるいは、数学の中に体を使う「体育的要素」はないのだろうか。様々な発想をさせてくれる非常に興味深い一冊だ。
人に本を薦めるのは得意ではないし、少し怖い。でも、同じ本について感想を語り合うことはとても好きだ。「最近なんか面白い本読んだ?」会話のはじめ方としてはいい文句だと思うのだが。どうだろう。
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- 平田オリザ著 「わかりあえないことから」 講談社現代新書
361.45 Ho 図書館1階