学長 朴澤泰治
はじめに従来、「書燈」の名のもとに図書館の広報誌的な役割を担っていた不定期刊行物が、このほど学生の図書館利用および読書をより促進することを目的に図書館ブログ「書燈」に衣替えし、全教員がリレー式に寄稿を継続させていくということで、その第1号の寄稿依頼がありました。
この類のものは、どちらかというと、豊富な読書経験や知識に裏付けられた高尚な「内容」あるいは「文体」ということが暗黙の前提になっているのではないかと考えられます。
しかし、仙台大学の学生のためにという「目的」を踏まえ、そして「継続させる」ということに着目し、少々変わった内容の寄稿とすることにしました。『「図書館とは」、「活字を看る」とは、』と題し、「見る」ではなく「看る」としたのは、その意図に基づくものです。
ちなみに、広辞苑に依れば、「みる」とは「自分の目で実際に確かめる」転じて「自分の判断で処理する」という意味です。そして意味合いとして、「目によって認識する」、「判断する」、「物事を調べ行う」および「仏前に供える花を切る」に分類化し、「物事を調べ行う」という意味合いについては、「取り扱う、行なう」、「過ごしていけるよう力添えする、世話をする、面倒をみる」および「看病する」ということが含まれるとしており、「看る」と書く場合もあるとしております。
以下の記載が、学生諸君において、この題名に託した意図を汲み取れる内容として「看て」頂ければ幸甚です。
1.「図書館」とは
図書館との交わりで最も強く私の記憶に残っている出来事は、何といっても新潟地震の揺れとの出会いです。新潟地震とは、昭和39(1964)年6月16日のお昼過ぎに新潟県沖を震源として発生したM7.5の地震のことで、仙台市も新潟市と同じ震度5(当時の基準)の揺れに襲われました。その時、私は、3年生として在学していた高校の3階にあった図書館で大学受験のために教科書を開いておりました。当時、「優に1m以上は」という感覚でしたが、座っていた椅子と使用していた長机とが一緒に大きく移動するという、かつて経験したこともない強い揺れに襲われました。昨年の東日本大震災の時、若し同じ状況にあったらどれほどの感覚に陥っただろうか、想像に余りあります。しかし、地震がおさまった後は、いつもと同じように教科書に向かっておりました。
図書館は、様々な用途に使える空間です。特に現下のIT社会においては、その機能を単なる蔵書の活用の場に止めることは、もはや困難です。如何に図書館を使いこなすか、まさに学生諸君の腕の振るいどころと云えます。もちろん、他人に迷惑をかけないという大前提の下にですが。ちなみに、私の大学生時代は大学紛争のあおりで、逆に、図書館は閉鎖しっ放しとなり、使える空間自体が存在しておりませんでした。
図書館との交わり(その2)として、写真を2枚、掲載します。一つはベラルーシの新しい国立図書館。もう一つはアメリカ東海岸ニューへブン市のエール大学の図書館です。国際交流で海外に出ると、都市や大学の図書館を見学する機会を得ますが、そのなかで印象に残った図書館の建物の写真です。ベラルーシ国立図書館の外観には奇抜という印象を受けましたが、内部は非常に機能的になっております。また訪問したいので、有効期間2020年までの図書館入館証を購入しました。
(ベラルーシ国立図書館)
エール大学図書館では、活字印刷の発明者であるグーテンベルクが15世紀に印刷した紙版の聖書で、世に40部弱しか存在していないという印刷物の歴史的展示に出会いました。図書館は、内部の蔵書閲覧だけがその保有する機能ではない、ということに気付かされます。
(エール大学図書館)
2. 「活字を看る」とは
古い話になりますが、高校に入学した時、夏季休業や冬季休業を利用して、高校3年間で世界的名作といわれる大作の書物にチャレンジすることにしました。不得手な国語を克服するための受験対策です。夏季休業中には、ドストエフスキーの「罪と罰」を1年次に、トルストイの「戦争と平和」を2年次に、与謝野晶子訳による紫式部の「源氏物語」を3年次に、それぞれ読破しました。冬季休業中には、夏目漱石の「我輩は猫である」あるいは天声人語の集録集その他、当時、大学入試で取り上げられる可能性の高い書物を通覧しました。今では「末摘花」程度の固有名詞しか浮かんできませんが、大量の活字物を克服したという経験は、実際の大学入試に際して、当時、どんな書物からの引用であっても対応できるという自信の基となりました。また、あらすじを掴んでいるという点も設問に対する恐怖心を和らげました。書物には、読書の対象ではなく「活字を看る」対象という機能もあると考えております。
本年度から、中教審答申の「機能別分化」の観点なども踏まえ、体育系大学という特色を簡明に学生諸君が体験できる教養教育の一環として、「仙台大学の専門教養演習」を開講しました。競技種目別に同好の学生が集い、好きな種目に対する様々な視点からのアプローチを通じて「就業力」の基礎となる教養を身に付ける、という目的で設定されている授業科目です。
サッカー競技については、1年間を通じて、2週間に1回、サッカーを取り巻く人文科学・社会科学・自然科学の各面から国際的トピックスを取り上げ、2年生約70名が「就業力」としての教養を身に付けるための学修をしております。夏季休業前、サッカー部長の立場で、私から長谷部誠著の「心を整える」のうち「活字を看て」欲しい部分を取り出し、その学生諸君に看てもらいました。「夜の時間をマネージメントする」、「指揮官の立場を想像する」、「変化に対応する」などと並んで「読書は自分の考えを深化させてくれる」、「読書ノートをつける」等の見出しも躍っている書物です。読書だけではなく、「活字を看る」ものとしての書物の位置付けもあると気付きます。
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リレーコラム「TORCH」とは?
本学図書館ブログ「書燈」の新企画として新たにスタートしたリレーコラム「TORCH」は、学生の皆さんにもっと図書館を利用してもらいたい、もっと多くの本に触れてほしいという思いから、読書や図書館の魅力にさまざまな角度から光を当てることを目的として、リレー形式のコラムを連載することにしました。
リレーコラムのタイトルは「TORCH(トーチ)」。コラムのバトンを繋いでいくことから、オリンピックの「トーチ・リレー(聖火リレー)」をモチーフにしました。
英語の「torch」には「知識(学び)の『ともしび』」という意味もあります。このブログが一つのきっかけとなり、学生皆さんの知識の「ともしび(torch)」を未来へ「つなぐ(relay)」ことができればとも考えています。
「TORCH」は週刊での連載を予定しています。ぜひお楽しみください!