2012年6月25日月曜日

【寄稿】雑誌レビュー&ブリーフィング<6月>

阿部篤志(仙台大学講師・スポーツ情報戦略)


<Pick Up>「多様性」の概念を含めた統合的な遺伝学教育の必要性〜スポーツの真のグローバル化を見据えて


平成242012)年度から中学、高校の学習指導要領が改訂され、高校生物ではDNA・遺伝子が中心となり、メンデルの遺伝の法則「遺伝の規則性と遺伝子」は中学校(義務教育)に移行したことが歓迎されている。課題もある。遺伝学は元来、「遺伝の仕組み」と「多様性」を統一的に理解するための学問とされているが、日本では「genetics」が「遺伝学」と邦訳されたため、前者に重きが置かれ、「多様性」の概念が軽視されがちとなった(池内)。

スポーツと遺伝は、素質を有する人材の識別(Identification)し、育成、強化することで国際競技力向上を図る「タレント発掘・育成(TID)」の領域における一つの課題として取り上げられてきた。2001年〜2004年のJISSタレント発掘研究プロジェクトでも取り上げた。近い将来、個人の全ゲノム情報が比較的安価に得られるようになる(鎌谷)ことが見込まれることから、今後、遺伝的な観点からのTIDの議論は活発化することが予想される。

別の視点からも、「多様性」の観点からの遺伝学教育がスポーツ領域でも重要になると考えられる。その契機はユースオリンピック(YOG)の創設(2010)、スポーツ基本法の制定(2011)及びスポーツ基本計画の策定(2012)である。

前者の文脈では、スポーツの文化・教育との融合の潮流が促進されれば、トップアスリートのみならず、各世代のアスリートやスポーツ関係者がグローバル(マクロには国際的に、ミクロには同一集団を超えて)に交流するようになる。その時に重要なことは多様性への寛容である。また後者では、これから日本ではオリンピックスポーツとパラリンピックスポーツはさらに距離を縮め、地域においてもいわゆる健常者と障がい者が交流することが多くなる。その際に、表面的に取り繕いではなく、ゲノム多様性への理解を通じた本質的な交流が図れるようになることは、スポーツを通じた社会の発展において重要な課題である。


文責:阿部篤志


<雑誌特集リスト> 
タイトル
ID
特集/主要トピックス
情報の科学と技術
Vol.62
No.6, 2012
電子ブックと出版
初等教育資料
No.887
JUN, 2012
自ら学ぶ子どもを育てる授業づくり
生物の科学 遺伝
Vol.66
No.3, 2012
新学習指導要領とこれからの生物教育〜何が変わり、どう変わるべきか[遺伝と進化の分野を中心として]/「遺伝的多様性」と「ヒトの遺伝」に理解を
月刊体育施設[スポーツファシリティーズ]
5月号(第417号)
toto助成によるスポーツ施設整備〜2008年度から2010年度までに328件・約56億円の事業実施
公衆衛生
Vol.76
No.6, 2012
運動とは何か〜人々にとっての「スポーツ」と「運動」の意味を考える
体育の科学
2012 Vol.62
5
月号
スポーツにみるグローバルとローカル〜文化としてのスポーツのグローバル化の複雑な様相/スポーツを支える地域戦略
臨床スポーツ医学
Vol.29
No.6 2012
アスリートの手指の外傷と障害〜診断から競技復帰までのアプローチ
バイオメカニクス研究
No.16
No.1 2012
野球の投・打動作の分析〜2010世界大学野球選手権大会における試み


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「雑誌レビュー&ブリーフィング」は、阿部ゼミの勉強の一環でやっている「情報ブリーフィング」の一つです。仙台大学付属図書館に所蔵されている、主に体育・スポーツ系の雑誌の特集や主要トピックスのタイトルを、毎月1回、さらっとレビューします。またその中でちょっと気になる話題について概略をブリーフィングします。雑誌情報を俯瞰する情報としてご活用いただき、気になる特集などがあれば、図書館の雑誌コーナーに行きましょう!