2020年10月2日金曜日

【TORCH Vol.122】 スポーツ小説がもたらす力

教授 佐藤修


堂場瞬一の「チーム」を選ばせて頂きました。実は「スポーツ文化論」の授業で10月9日分を担当していまして、この日のテーマが「スポーツと文学」なのですが、広い意味でスポーツ小説を取り上げようと思い、真っ先に浮かんだのがこの小説です。

 10年ほど前、私は東北放送でアナウンサー職にあり、ラジオ番組を担当していました。番組内に「おさむのプチ読書」というコーナーを作り、1週間に読んだ本を紹介していましたが、その時会社の先輩が進めてくれたのがこの「チーム」だったのです。

 箱根駅伝で、前年大会でシード権を逃した大学による予選会が、本大会の2か月前に開かれる。予選会を通過できるのは10チーム。不運にも出場を逃した大学の中から、予選会で上位の記録を残した選手により編成される学連選抜が、箱根を走るまでの物語。

 いわば寄せ集めのメンバーがチームになるまでの学生たちの苦闘と本番での個々人の葛藤や思いが描かれています。ストーリーにはお決まりの、チームになじめない地雷のような選手が登場します。しかし記録は群を抜いてトップ。メンバーから外すわけは行かない。だが入れればチームの和は乱れる。キャプテンを任された浦選手が悩み考えます。そこで浦選手はこの選手にある言葉をかけます。

 その一言は私の胸に深く刻まれていました。何かにつけて思い出しては、チャンスがあれば放送で言ってみたい。そんな衝動に駆られていました。

 それから程なくして東日本大震災が発生します。3月11日のことです。4月からスポーツ部長に着任する予定だった私は、前倒しで予定していたスポーツ中継をどうするか、さらには他から押し寄せる復興支援イベントや慈善試合などの調整に追われました。そして4月2日、楽天イーグルスの慈善試合が本拠地球場で開催されました。その時、嶋基宏選手が送った言葉が多くの野球ファンを勇気づけました。

「見せましょう、野球の底力を」

 その言葉を球場で聞いていた私の心にも深く届きました。下を向いている場合じゃない。

そして実はその前に語った、あるフレーズに私は釘付けになっていたのです。そのフレーズこそが「チーム」の中で浦キャプテンがその選手に語り掛けた言葉だったのです。そのフレーズはスポーツシーンのあらゆる場面で語られている言葉なのかもしれません。もしかしたら嶋捕手がこの小説に接していて無意識に湧いてきたのかもしれません。

 実況中継に明け暮れていたころ、自分が発する言葉にもっと魂やエネルギーを吹き込みたいとスポーツ小説やノンフィクションを多く読みました。視野が狭くなる取材や放送にあって、ふっと頭に浮かんでくる作品のワンフレーズが選手へのインタビューや中継の時に、行き詰まった自分をたびたび救ってくれました。スポーツ選手だけではない、スポーツを外から応援している人も多くの言葉を持っています。それは未経験だからそこ到達できない世界への強いあこがれが、選手の心を揺り動かすのかもしれません。スポーツ小説にはそんな力があることを学生に伝えたいと感じています。