教授 高橋 仁
教師をめざす皆さんへ
教師をめざす皆さんへ
「働き方改革」という言葉をよく耳にするようになりました。「働き方改革関連法」と言われる一連の法律も成立し、働く人々のワーク・ライフ・バランスの実現、公正な待遇の確保をめざす、とされています。この「働き方改革」は、学校で仕事をしている教師についても例外ではないということで、これまで教師が担ってきた業務の見直しについても議論されています。
石油をはじめ多くの資源を持たない日本では「人づくり」が何よりも重要であり、その「人づくり」の場である学校教育に対し、保護者をはじめ地域社会は大きな期待を寄せてきました。学校では、その期待に応えるためにスポーツをはじめいろいろなものを学校教育の中に取り込んできました。しかし、時代の変化とともに学校への期待や要望も一層多様になり、そのすべてに応えることが困難な状況になっています。このような学校をとりまく環境の変化を踏まえ、「働き方改革」の一環として、学校、そしてそこで働く教師がやるべきことは何なのかをもう一度考え直そう、という議論が進んでいます。
このこと自体は必要な事であり、教師にもワーク・ライフ・バランスが必要だという考え方にも私は同感ですが、その一方で、少し違和感もあります。教師の仕事は、単に「時間」で区切ることのできないものです。いざというときには子どものために何をおいてもかけつけるという「覚悟」と「実践」が求められるものであり、そこに職業としての価値とやりがいもあるのではないかと考えています。教師の在り方について、この点も踏まえた深い議論が展開されることを願っています。
かなり前になりますが、本屋さんで「大村はま」という教師が書いた「灯し続ける言葉」という本を見つけました。とても分かりやすい言葉で、教師としての「覚悟」と「実践」を私に問いかけてきました。それから現在まで、時々読み返しては自らを振り返り、「襟を正す」機会にしています。教師を目指す皆さんにもぜひ読んでほしい一冊です。
この本の一節を紹介します。
教師の仕事は、生きている子どもに生きた知恵を育てることです。そのためには、初々しい感動、新しい命のようなものが教師の側にないと、子どもを惹きつけられません。
学者の方でしたら、研究を深める、高めるとうことでいいのでしょうが、教師の場合はちょっと違います。何度も読んだ教材、何度も感動した作品であっても、教室に持っていくときは、新しく加わった感動が必要なのです。今日の太陽が昇って、昨日の自分とは違う新しい自分がいる、そういう激しい成長力のようなものが子どもを動かします。これまで研究して蓄えてきた知恵が、そこで初めて生きた力となって、子どもに伝わります。
人を育てるというのはそういうことです。積み重ねた努力、人柄の良さや、研究の深さ、子どもへの愛情、そういったもの何もかもを生かすには、今日の新たな一滴が要るのです。