2018年10月31日水曜日

【TORCH Vol.108】Sport2.0 進化するeスポーツ、変容するオリンピック(NTT出版)




スポーツ情報マスメディア学科  助教  溝上 拓志



子どもの頃、友人たちと毎日のように対戦し遊んでいたサッカーゲームソフト「ウイニングイレブン(以下「ウイイレ」)」。身近な遊びだったウイイレは、今年開催された第18回アジア競技大会(ジャカルタ・パレンバン)のデモンストレーション競技として初採用された。私は、アジア最大のスポーツの祭典において日本代表選手がウイイレで金メダルを獲得したことを知り、何とも言えない不思議な気持ちになった。



コンピュータゲームとスポーツ。本書は、正反対であると言われてきたこの2つの文化に対して、デジタルテクノロジーの進展がもたらした変化やこれからの可能性を論じている。著者のアンディ・ミア(田総恵子 訳)は2008年に国際eスポーツ連盟(以下「IeSF」)が設立されたことについて、19世紀に起きた伝統的スポーツ体系化の動きに匹敵すると述べている。実際にIeSFは、2013年以降世界アンチ・ドーピング機構に参加し、その後スポーツアコードの暫定メンバーになっている。これらの動きからeスポーツは、今後スポーツ界だけではなく社会にとっても重要な位置付けになっていく可能性があると考えられる。

本書はeスポーツに限らず、「スポーツ×テクノロジー」についても文献や事例をふまえて幅広く取り上げられている。第2部以降では、トレーニング、パフォーマンス評価、バーチャルリアリティ、ソーシャルメディアとオリンピック等の変容についても描かれており、体育系大学の学生にもおすすめの1冊である。



来年には、茨城国体に合わせて全国都道府県対抗eスポーツ選手権が開催される。すでにウイイレの採用は決まっており、どのような盛り上がりをみせるか今から楽しみだ。

2018年10月18日木曜日

【TORCH Vol.107】学生野球憲章とはなにか~自治から見る日本野球史~




 体育学科 助教 小野寺和也 



今年の夏の甲子園大会では金足農業高校が快進撃を続け,秋田県勢としては102年ぶりの準優勝を成し遂げた.吉田投手の快投がこの快進撃の原動力となったことは間違いないが,その裏で吉田投手の酷使を問題視する報道が盛んに行われた.また,酷暑の中での大会運営や頭髪に関する論争など様々な議論が巻き起こった夏の甲子園大会であった.

様々な意見や,改革案を提示することは重要なことではあるが,学生野球の問題点や今後の方向性を考えていくうえで,過去の歴史を学ぶことは大切である.制度や規則が成立した過程には,様々な事件や事象が大きくかかわていることも多い.

本書はスポーツ史を研究している中村哲也氏によって書かれ,2010年に出版されたものである.「学生野球憲章とはなにか」という題目の本ではあるが,本書は学生野球の歴史をまとめ,その中で学生野球憲章の成立と改正について触れられている.学生野球がどのように発展し,その中でどのように学生野球憲章が作られたのかということを学ぶことができる.歴史を学ぶことで今後,どのように野球界が進んでいくべきなのかということを考えるきっかけにできるだろう.そして,一個人としては何を大切にして,学生野球に取り組むべきなのかを考えるきっかけにすることができる.学生野球の未来を語るうえで理解しておくべき事象が分かる一冊である.