体育学科スポーツコーチングコース
陸上競技部 投てきコーチ
宮崎 利勝
私は陸上競技の投てきを専門としています.日本人で投てきといえば,アテネ五輪の金メダリスト,室伏広治選手を思い浮かべる人が多いと思います.しかし,室伏選手が世界トップで活躍する以前に,投てき競技において世界と肩を並べて活躍していた日本人がいました.本書はその人,溝口和洋選手のやり投げを記したものです.
1989年,溝口選手はやり投げで87m68を投げました.当時の世界記録を2センチ上回る記録です.場内に世界新記録樹立がアナウンスされましたが,なぜが再計測….再計測の結果は87m60.当時の世界記録(87m66)に6センチ足りない記録となりました.「幻の世界記録」となりましたが,世界トップの実力を示し,その後も世界の舞台で活躍をしました.
この本の中では,溝口選手がやり投げという競技にどのように向き合ってきたかが,本人の言葉で表現されています.
例えば,
『「やり投げ」を考えるだけで,これまでのトップ選手のフォームが脳に焼きついてしまっているので,偏見から抜けきらない.そこで私が考えたのは,「全長2.6m,重さ800gの細長い物体を遠くに飛ばす」ということだ.』
これはトップ選手の真似をするのではなく,自身のやり投げを作っていく過程での言葉で,他にも投げの動作を『やりを保持して全力で走り,車に衝突するイメージ』などと独自の表現をしています.自由な発想,独自の視点を持ち,自身のやり投げを極めていきました.
また,溝口選手は体格で欧米人よりも劣る分,ハードトレーニングを積み重ねたことでも有名でした.
『12時間ぶっとおしでトレーニングした後,2,3時間休んで,さらに12時間トレーニングすることもあった』
『他の選手の3倍から5倍以上の質と量をやって,初めて限界が見えてくると私は考えている』
私も知人から聞いたり,記事を読んだ事がありますが,本当の壮絶なトレーニングを自分に課していたそうです.
記録を残すために想像を絶するトレーニングを課す課程はなかなか真似のできることではないと思いますが,世界トップクラスまで上り詰めた溝口選手の生き様は,現在部活動に取り組んでいる学生の皆さんにもぜひ読んでもらいたいと思います.