2020年12月7日月曜日

【TORCH Vol.128】 さあ、才能に目覚めよう

 講師 片岡悠妃

 さあ、あなたの人生がスタートしてからもう20年近く経過しています。丸腰ではなかなか生きづらい人生でもあります。あなたが今生きている真っ最中のこの人生をより楽しむために、時には戦うために、使っている「武器」は何ですか?ここで言う「武器」とは、あなた自身、つまり、「あなたの強み」のことです。言い方を変えます。あなたの強みは何ですか?こう尋ねられた時に自信を持って、「私の強みは〇〇です」と答えられるか。こう尋ねられる機会がなくても、あなたは20年近くずっと付き合い続けている「自分」のことを、どれぐらい知っているか。「強み」に気付けているか。生まれながらにして誰もが人とは違う「自分だけの武器」を持っているのに、その「武器」の存在に気付かず、気付けていたとしてもその正しい使い方を知らないまま人生を終えるのは、あまりにも勿体ない。そして、その強みこそが、あなたの人生を楽しく幸福にする鍵であるということに、今ここで気付いて欲しい。

 ではなぜ、「自分」のこと、「強み」を知ることが人生において重要なのか。過去10年以上に渡りギャラップ社は、世界の1000万人以上を対象に調査を行い、毎日の仕事において強みに取り組む機会がある人は、ない人よりも何倍も意欲的かつ生産的に仕事に打ち込む傾向があり、総じて「生活の質がとても高い」と述べる傾向が高い、という調査結果を出した。幸福や成功の定義は人それぞれ違うだろうが、人は自分の得意なこと、才能を発揮している時の方が幸福と感じやすい。

 よく、ドラマや映画、ドキュメンタリーなどで取り上げられる主人公は、才能を存分に発揮している人よりも、自分の弱点と向き合い能力不足を乗り越えて成功を掴む人が多い。ここから私たちが受け取るメッセージは、「自分の弱点を克服するために努力することの大切さ」というものである。実際に、私たちが受けてきた教育の中にも、このような考えは浸透している。「強み」よりも「欠点」の方に目がいき、「強み」を磨くことよりも、「欠点」の克服に人生のより多くの時間を割きがちな私たちに、本書はこう言う。

『(欠点を克服する)「いばらの道」を選ぶな。何でもなりたいものには「なれない」が、(自分の強みを知り、強みを磨くことで)本当の自分を大きく飛躍させることが「できる」。』(欠点の克服に向き合うことが悪いわけではなく、自分の強みを知らずして欠点ばかり克服しようとすることはナンセンスである、という意味合いだろう。)

 今回紹介する『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 新版ーストレングス・ファインダー2.0』(トム・ラス著、古屋博子訳、日本経済新聞出版社)は、「人間の強み」に関する膨大な調査データを基に、人々に共通する34の資質(共感性、戦略性、適応性、分析思考、慎重さ、責任感、達成欲…)を言語化し、それらを発見・説明するためのアセスメントを開発し、掲載している。本書の最後のページにある封じ込みをめくって開き、封じ込みの中に記載されているアクセスコードを入手し(この過程が、自分を知るための秘密の鍵を手に入れたようでワクワクする)、オンラインのアセスメントを受ける。質問事項に答えていき、その結果に基づいた自分専用のガイドを利用することで、あなた自身の強み(トップ5)を知り、それに基づいた能力開発プランを策定することができる。つまり、あなたは1800円+税を支払うことで、才能(じぶん)に目覚めるきっかけを手に入れることができる。この値段を安いと思うか、高いと思うか。自分自身を知らないまま時が経ち、他人や社会に振り回されて死をむかえてしまうことを想像すると、ゾッとする。SNS等で他者と容易に接続することができるからこそ、あえてそこを断ち、自分と向き合う孤独な時間を作ることも、今しかできない貴重なことだと思う(大学生のうちに・・・と私自身後悔している)。これから死ぬまで一生付き合っていく自分に、少し時間を割いてはどうだろうか。

 あなたの才能はあなたに見出されるのを待っている。さあ、才能(じぶん)に目覚めよう!


『さあ、才能に目覚めよう ストレングス・ファインダー2.0』

著:トム・ラス  訳:古屋博


2020年12月2日水曜日

【TORCH Vol.127】 図書館には文化を守る役割がある

 教授 氏家靖浩 


 春から健康福祉学科に着任した50半ばのオールドルーキーです。大学の教員歴は20年を超えますし、今は立場上、学生には授業にちゃんと出席しなさい、と厳しく語るものの、若き日の自分は、それはそれはひどい大学生でした。アルバイト、草野球、読書、旅を優先し授業への出席は必要最低限といった感じでした。

 その必要最低限の授業の中のひとつに、1年次の必修科目「国文学史」がありました。月曜1時限目、遅刻は欠席扱いなので必死に出席しました。担当者は奥の細道の研究で有名な先生です。実は私はその先生の著書を既に読んでおり、授業内容は文字通り文学の歴史の基礎知識に関する概論でしたが、時折「これ、知らないでしょ?」と挟み込むエピソードはご自身の著書に関係する話題が多く、私は心の中で「オレ、知っているよ。退屈だなぁ」と思いつつ睡魔と闘って聴講しておりました。

 ところがある日の授業でその先生が突然「君たち、図書館は何のためにあるか、知っていますか?」と問いかけました。何人かの真面目な学生たちは「本を貸すため」とか「高い本は簡単には買えないので、代わりに買って貸す」といったことを答えましたが、先生は少しいらいらした雰囲気を漂わせつつも淡々と「違います」を連発しました。回答は「図書館の本当の役割は、時代の文化を守ること」と答えられたのでした。

 諸説あるのでしょうが、例えば文庫本はどんなに優れた価値や内容を持つものでも、印刷の原版が切れてしまえば印刷はできなくなり、本の形にはなりません。だから、その文庫本が流通しているうちに図書館に収蔵し、その時代の学術文化を守る役割が図書館にはあるのです、と相変わらず淡々と話されてから次の話題に移っていきました。

 電子書籍、PDF化、クラウド保存といった話題が当たり前になっている現在から見ると、ずっと昔のことのようですが、ほんの30年ほど前のこの星のリアルな話です。もはや時代劇ですね。

 ただ、とにかくこの時の私には、青天の霹靂というか、目からウロコが落ちたというか、価値観のコペルニクス的な転換というか「勉強になった、大学に入れて良かった」という熱い思いが込み上げていたのです。『時刻表2万キロ』(河出書房新社、1978年)や『時刻表昭和史』(角川書店、1980年)の著者である紀行作家・宮脇俊三氏が「鉄道の主たる任務は貨物・荷物を運ぶことであり、人間はついでに乗せているに過ぎないということを知って激しい衝撃を受けた」と記し、そのことを宮脇氏を通して私も知って激しい衝撃を受けたことを覚えていますが、それに匹敵する衝撃が走ったのが、この図書館の任務を知った瞬間でした。私も単純に図書館は本を貸してくれるところ、といった印象しか持っていなかったので、それ以来、図書館のことが話題になるたびに、文化を守る役割があるんだよなぁ・・という厳粛な思いを持つようになったのでした。これを知ることができただけでも、大学に入れて良かったと思ったものです。

 しかし、残念な私はその後、この授業の感動はあっという間に忘れてしまい、成績は低空飛行のまま卒業しました。バブル景気がまだまだ加速していた時代でしたが、私はどうしても心の病気を良い方向に向ける医療に関わりたくて精神科病院のカウンセラーとして就職しました。でも、いざ仕事としてカウンセラーをやってみると、知識不足を痛感する毎日です。そんな折、出身の大学の大学院では、社会人の経験も交えて勉強することがとても重要であるというメッセージを打ち出しており、思い切って勤務していた病院を退職し、あらためて大学院生として学生生活を送ることにしたのです。

 社会人の時の蓄えと奨学金、それにパートタイマーとして病院や福祉施設のカウンセラーとして食いつなぐことで大学院生としての生活を送る決意を固めましたが、大学院に入学して早々、大学の図書館からある情報が流れました。それは「大学院生も増えてきたので、図書館を夜も開館したい。しかし、スタッフは少ないので、夜のカウンター業務や急速に進みつつあった図書の電子化登録作業については給与を支払うので、大学院生をアルバイトとして募集したい」というものでした。

 この話を聞いて私の頭には、ふたつのことが思い出されました。ひとつは単純に「お金」であり、もうひとつはあの授業で聞いた「図書館には文化を守る役割がある」という言葉でした。実利と名誉のふたつの思いから早速応募しました。しかし、応募者が多数なので、あとで図書館長が面接をして採用する人を決めます、とのことでした。

 後日、私の面接の日、さて図書館長は誰だろうと思いつつドキドキして面接室に入ると、そこにいた図書館長は、かつて私に「図書館は文化を守る役割がある」という授業をしたあの先生だったのです。その先生は私の経歴を見て「社会人からわざわざ入学したんだ」と少し驚かれ(何年も前のことですし受講している学生も多く、ましてや不真面目だった私のことなど覚えているわけはありません)「図書館は何のためにあると思いますか?」という質問を投げかけて寄こしたのです。私は冷静に心の中の時計を逆回転させて、以前その先生が話されたように回答しました。

 もともと合否は後日お知らせしますとありましたが、この回答が気に入られたのか私はその場で採用が決まり、面接の直後には早くも図書館の仕事を任され、大学院生兼夜の図書館スタッフ(ほかにパートタイマーとしてカウンセラー、ラーメン屋さんのどんぶり洗い、古本屋さんの店番)に就任した次第です。

 まとめです。学生時代にサボりまくった私が言うと説得力に欠けますが、学生の皆さん、学生の本分はやはり勉強です。ちゃんと授業に出て、先生の話に耳を傾けましょう。授業でしっかり学ぶことで時間を有効利用して、部活や学生生活をより一層エンジョイさせることができるはずです。そうすると私のように(?)めぐりめぐって少しはいいことがあるかもしれませんから。