柴田 千賀子
そんな憧れを強く抱いたのは、ある絵本との出逢いがきっかけでした。絵本といっても、その出逢いは幼少期ではなくハタチを過ぎてからのことです。「子ども」と呼ばれる時期を過ぎてからも、私は絵本に魅了され続けていました。その頃、幼児教育を学んでいたからということもありますが、絵本に惹きつけられる理由は、それだけではなかったように思います。大人になってから絵本を手にとった時の感覚を思い返してみますと、絵本のもつ世界観に加えて、その時々の自身の心のあり様が反映されて心に染み入ってくるような気がします。
話が飛躍しましたので始まりに戻しますと、わたしを海外への旅にいざなった絵本は、安野光雅『旅の絵本』です。この一冊を東京の絵本専門店で手にしたとき、鮮やかな色彩で描かれる海外の街や村の様子に魅了されたことを今でも覚えています。この風景を、この目で見てみたい!そう思わせる力が、安野さんの絵にはありました。ご存知の方も多いと思いますが、安野光雅の本には、絵ばかりの絵本がたくさんあります。それ故、自身の創造力や読む時の心情が色濃く反映されるのでしょう。絵本を片手に、一息ついて己と対峙する。そんな時間もいいものです。思いがけない自分と出会えるかもしれません。
大人になって絵本を読む面白さを、もう一つ。大人にとってみたら至極ちっぽけな出来事なのに、子どもはとてつもなく深く考えていて、時には考えが哲学的でさえあることを発見できる絵本があります。ヨシタケシンスケ『りゆうがあります』『もうぬげない』です。作家は大人ですから、子どもの心を想像して描いているのですが、かつて自身も子どもだったということに気づかされ、子どもと関わることが、それまで以上に面白くなる内容です。謎多き子どもの行動に、実はこんな意味があったのか!学術書とは違った視点で子ども理解が深まるかもしれません。
子どもが身近にいない大人にとって、絵本を読む機会は皆無に等しいかもしれません。当然、優先順位からいえば手に取る機会は圧倒的に少ないでしょう。でも、一冊の絵本から思いもかけない発見を得たり、日々の疲れがふっとゆるむ瞬間が訪れるかもしれません。本学に、「子ども運動教育学科」が開設されたことで、図書館にも絵本が豊富に揃いました。時には肩の力を抜いて、絵本の世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。
安野光雅『旅の絵本』福音館書店
ヨシタケシンスケ『りゆうがあります』PHP研究所
ヨシタケシンスケ『もうぬげない』ブロンズ新社